品質工学座談会-機能性評価と計測-2020年2月28日公開
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品質工学座談会-機能性評価と計測-2020年2月28日公開(計量計測データバンク)
品質工学座談会-機能性評価と計測-2020年2月28日公開(計量計測データバンク)
品質工学座談会-機能性評価と計測-
NMS研究会 開催日10月5日 場所 品質工学会会議室
品質工学座談会-機能性評価と計測-2020年2月28日公開
品質工学における機能性評価とは、多くの品質特性を一つ一つ評価するのでなく、製品やシステムの本来の働き(機能)を評価しようというものである。顧客の使用条件や環境条件の違いによって、その働きがどれだけ影響されにくいか、あるいはばらつきにくいかの程度(機能性)を、SN比という一つの測度で表現する。品質特性の多くは弊害項目(悪)や使用条件差に類する項目であり、いずれも本来の働きが変化したり、ばらついたりすることによって生じる。機能が十分に発揮されていないことが本質的な問題で、機能性が優れていれば、必然的に複数の品質特性も改善されるという、品質工学で機能を扱うときの重要な考え方の一つである。
出席者
応用計測研究所(株) 鴨下隆志
元東亞合成(株) 中島建夫
クオリティーディープマーツ(責) 吉澤正孝
アルプスアルパイン(株) 白木信
(株)小松製作所 細井光夫
NMS研究会 窪田葉子
日本能率協会 見原文雄
東芝エレベータ(株) 小川豊
キヤノン(株) 吉原均(司会)
吉原均(司会)みなさんこんにちは、計量新報座談会を始めます。この座談会は、2015年の日本計量新報新年号への掲載に始まり、NMS研究会で品質工学に関するテーマを取り上げて議論する毎年の恒例行事となっています。2020年新年号のテーマは「機能性評価と計測」です。機能性評価という聞き慣れない言葉ですが、品質工学では、ばらつきの少ない安定した品質を得るために必要となる機能の安定性を議論する最も中心的なキーワードの一つです。目的の機能が、ユーザーのさまざまな使用条件でどの位ばらつくのかを評価すること意味します。今回は、アルプスアルパインの白木信さんにスピーカーとして加わっていただきました。2019年6月の品質工学研究発表大会で機能性評価に関するテーマで発表しておりまして、このテーマを題材にしてアルプスアルパインで取り組んだ機能性評価の一例を紹介していただきます。紹介いただいた事例をもとに、座談会を進めていきます。
産業用ロボットの計測
白木信今、紹介いただいたように6月の大会で産業用ロボットの機能性評価について発表させていただきました。ロボットの機能の安定性について、機能性評価としてばらつきを評価する中で、計測の問題が非常に重要であるということに改めて気づかされました。NMS研究会の創始者の矢野宏先生もこれまでよくいわれているように、最後は計測がものをいうよということを実感しました。ここで面白かったのは、その機能の安定性そのものが計測に影響するかもしれないってことに気がついたことです。今回、ロボットの機能安定性ということで検討したわけですけれども、われわれが生産現場で使うロボットの機能をどのようにとらえるのかということをどのように決めるのかを議論したことです。われわれが使うロボットは製造現場でものを運んだり、ねじを締めたりするわけですが、結局、指定された場所に動くことが、どんな作業にも必要なことで、指定された位置にちゃんと到達するかという意味での位置のばらつきを評価することにしました。評価するために座標を測るわけです。ロボットの位置をミクロン単位で計るということになるのですが、指定の場所に行くということをみるのに、全体で5カ所の指定場所を決めました。そこをたどっていくという動作をして、5つの座標を測ろうとしたわけです。そこで問題になったのが、そこにたどり着いたというのはどうやって測るのかということなのです。ミクロン単位あるいは時間でいうと数ミリセックでその位置に止まったということが、そこにたどり着いたということにしようと考えたのですが、実は止まっているという状態をどう定義するのかということが非常に難しいというのが分かりました。座標が変わっていないことなどを測るのが、なかなかうまく計測できないということで、計測が難しいということが分かりました。
もう一つは本来のロボットの機能性評価をするということで、ロボットが正しい位置に来やすい、来にくいというパラメータを設定して誤差因子にする。誤差因子の影響による動作のばらつきをみるわけですが、ロボットにおもりを持たせたりするとけっこうふらついてしまうので、実際は止まっているはずなのですが、そこは数十ミクロンフラフラ動いているわけです。そのときにどこまで座標にたどり着いたかを読み取るのが非常に難しい。そういうことで、ロボットの機能そのものとロボットの位置を測る計測精度が落ちてしまうなど、計測するのがすごく難しいことなど、いろいろ検討して分かりました。そこで機能性評価と計測では、ばらつきを機能のばらつきと計測のばらつきと分けますが、実際には混然となっているとこもあって、そこが難しさでもあり面白さでもあることを経験しました。さらにいろいろ考えさせられている所ですが、こういったことが何かのヒントになればと思っています。
吉原均(司会)論考もありますので、白木信さん補足をお願いします。(研究発表会の際の原稿を画面に表示)
白木信5カ所の座標を目標点として設けて、4軸のロボットが各点に右回り、左回りでアプローチしたときに座標をどう通過しているか、ロボットの先端の座標を測ります。
吉原均(司会)なるほど、各点をどのくらいの精度で通過するのかを測ったのですね。
白木信実際に各点を通過する際にどのくらい、目標点とずれているのかを測ろうとしました。そのために実際に平面上の座標で測ってXY座標のグラフに表しました。測定してみると、止まっているはずの点の近くでもロボットの先端は常に動いていて、ロボットの停止点がどこなのかを定義しないと実際の座標がどれかが分からないということが、やってみて分かりました。
中島建夫グラフの軸は何ですか。
白木信軸はXとYで、こっちのグラフは時間経過に対する速度の変化を表しています。
中島建夫一定の速度で動いているのですか。
白木信:目標にだんだん近づいていって減速し目標点で一旦止まってから、次の目標点に行くようにしているのですが、止まっているはずの所でハンチングを起こしてフラフラしているのです。
中島建夫:XYと時間の3次元空間での動きを表しているのですね。どんな動きになればいいのかな。
白木信:理想は、目標点の所でロボットの速度が即座にゼロになって停止し、その後すぐに次に行くといいのですが。実際には、そうならないです。
中島建夫:動作の指示があったときに即座に変化するのがいいのですかね。
白木信:そうなります。時間まで含めた検討は、次のフェーズでしようと思っています。まずは、ここまで来たよというのをどうやって定義するかというのが、今回、問題になったことです。
吉原均(司会):ロボットの動作条件を直交表に割り付けて測っていますよね。
白木信:動作条件のうち、ハンド重量は誤差因子とも考えられますけれども、重い場合と軽い場合を想定しました。重い場合だとフラフラしやすくなっています。慣性で動いてから収束するのですが、どこを停止点とみるかというのがうまく読み取れないです。つまり分かりにくいです。それは計測誤差なのかもしれないということです。
吉原均(司会):目標点で、ロボットが実は停止していないという事態になって苦労されたわけですよね。
白木信:そういう意味では、ロボットや対象物の機能の定義をきちんとしておくというのが必要です。その上で、何を持って、こういう状態だというのを定義しないとうまく検討できないのかなということを実感しました。
吉原均(司会):ありがとうございます。さあみなさんいかがでしょうか。
産業用ロボットの機能とは
細井光夫:機能性ということはその前に機能があって、その機能が何かということですよね。このロボットを使う目的や使い方から機能が何か要ると思うのですが、そこにものを置くのでも、ねじを締めるのでも、何がしかの停止の精度が必要になるわけですね。そこに振動が残ってはだめという形で評価をするというのもあると思いますが。
白木信:正しい位置に来て、しかも、そこで細かく動いたときにも振動しないというふうになっていないと本来の機能ではないということでしょうか?
細井光夫:振動が残らないことが機能ということですか?振動自体は品質特性という感じがします。
吉原均(司会):このテーマで苦労されたことは何でしょうか。振動をいかに抑えるかということが課題として苦労されたのか、あるいは、振動があっても目的の仕事をこなすようにすることなのか。例えば、作業ですからものをピックアップして所定の場所に置くようなときに、揺れているとうまくつかめなくてピックアップできないとか、置く場所で、位置決め精度がうるさい所では、揺れが収まるまで置けなくなるから、待ち時間が出て全体の作業時間のロスが生じたりするとか、想像するといろいろあると思います。そういった意味ではロボットの機能として何を重視していて、それに対する評価をどのように意図されたのかをもう少し詳しく教えてください。
白木信:そういう意味では、製造現場でのものづくりに対する機能を重視します。ロボットの本体、つまりアームが正しい場所に来るということです。その次に、具体的な作業をするのに加えられる機能について検討するように考えています。ロボットが少々いい加減でも安定するようにするのは我々の設計の問題であって、今回は、ロボットとしてまず意図した所にどのくらいきちんと動作するのかを評価する検討をしました。
中島建夫:理想機能想定は何ですか。
白木信:正しい場所に移動するということです
中島建夫:決められた位置に移動することが機能ですか。
白木信:というふうに今回は決めました。
中島建夫:振動するかどうかは別の話なのね。
白木信:振動すれば正しい位置からずれる。それとサーボとしての動きとロボット自体の重みのせいで、慣性でフラフラと動いてしまうのがあります。
鴨下隆志:固有振動があるから。
白木信:そう、固有振動で共振しちゃうのです。
中島建夫:振動は、機能を妨げるノイズや弊害であって機能とは別でしょう。機能の定義は何かというときには振動は関係ないのです。
吉原均(司会):図のロボットの機能ブロックと基本機能をみてみましょう。
細井光夫:正しい場所に来ることは目的機能です。ロボットの制御には2種類あって、ポイントからポイントまでとにかく動けばいい場合と、ポイントからポイントに行く間にどこを通るのかが決まっている場合がある。
吉原均(司会):この場合は、ただ動けばいい場合じゃないですか。
白木信:今回はポイントからポイントへの単純移動になります。
細井光夫:指令値を最終ゴールだけ与えてそこに最短でいきなさいという場合と直線あるいは円弧を与えてその軌跡に沿って行きなさいという場合がある。
吉原均(司会):移動補間を各軸でやるというのが円弧補間を使うのかということですか。
細井光夫:各軸がP2Pのポイントからポイントへの移動ですか?
白木信:そうです。
機能を達成するための手段
中島建夫:機能を達成するための手段が制御因子だから、制御因子のよい悪いを、どのようにして評価しますかじゃないでしょうか。
細井光夫:なんとなく許容差設計の感じがするので誤差因子じゃないかなと思いました。
白木信:本来は誤差因子かと思います。
吉原均(司会):表には制御因子と書いてあるので、この検討では最も良い動き方を見つけようとしているのではないですか。
白木信:できればなるべく良い動きをしている方がいいのという思いも半分入っているので、そういった所を意図して制御因子としました。
吉原均(司会):そうなると誤差因子は何ですか。
白木信:誤差因子としては実際に動かすときの繰り返しと、右方向と左方向のどちらでもよいとしたいので回る向きが誤差因子になります。
吉原均(司会):なるほど、そういっても右回りでも左前でもどっちでも結果が変わらないよとしたいのですね。回り方向は制御因子というよりも誤差因子として今回は決めたということになるのですね。
白木信:あとは、ロボットアームの先端が、アームの手元なのかそれともアームが伸びた先なのかが誤差因子です。
吉原均(司会):なるほど、それは確かに誤差因子ですね。特にアームが伸びきった状態ではばらつきが大きくなります。
中島建夫:そのばらつきをコントロールするのが制御因子ですよ。今は機能と計測の話だから、ここでいう機能は何ですか?その機能はどうやって測りますか?の話の所だからね。どんな誤差因子、制御因子があるかという話は、その後の話ですよ。
吉原均(司会):すみません。まだ制御因子の話に行ってはいけないですね。
吉澤正孝:目標とする座標で示す位置があります。その点に来たときに、いつの時点でその点に到達したと判断するということが、難しいということだと思います。
細井光夫:今、測っているのは、P2Pの最後のポイントへ行って止まるかどうかという非常に限られた機能にしてしまっている気がする。その途中のパスも大事であって、この経路を行ってほしいということに対して、どのように実際に動いているということを時々刻々どれだけずれたのかを評価することも考えられます。停止時の振動も、要は、止まるという機能に対して止まっていないということです。ロボットの動きをトータルでとらえて機能性をSN比で評価すればいいと思います。SN比が上がればうまく止まるだろうし、SN比が悪いということは、経路からずれているのか、まだ振動しているか分からないけれど、良くないということだと思います。
吉澤正孝:現段階では、技術的に移動しているときに位置を結果として測定はできますが、狙いに対して全部測定することができないということですよ。
細井光夫:それを評価するために、外からカメラで撮って測っても良い。
吉澤正孝:そのようにすることが、理想の測定になりますが、そのような理想に対して計測することが課題と認識しているのではないでしょうか。
細井光夫:計測としてどういうシステムで計測するかがまさに今日のテーマなのだけれど、外部から測るのではなくて内部の情報から計算しているということですか?
白木信:そういう意味では、今回は、データが膨大になるので、指示したタイミングと実際のタイミングと両方の時間の情報をとりだしていません。
細井光夫:とすると、位置は中に持っているセンサーの情報から計算したということですか?
白木信:位置は、外部からレーザーで測りました。
細井光夫:外部から測ったのですね。
白木信:ただタイミングを合わせていないので、この時刻にここにいろよってことに対してその時刻にどこにいったかということは測れない。軌跡上からこの辺だろうということを割り出しています。そこが測定誤差の原因にもなっています。
細井光夫:外の基準があって位置を測っており、絶対的な位置は分かっているけれど、止まったつもりなのに止まっていないか分からないということだから、けっこう早く動いているわけですね。
白木信:そう、速くてミクロン単位で測っていますから、細かく動いていることが分かります。
吉原均(司会):計測する話に移ってきましたが、まず、機能の所のレベルを合わせしたいのですが。
吉澤正孝:例えば、軌跡がグラフのように測定していることは、動いている状態を検出できるということですよね。物理測定はOKです。それが目標に対して動いているかを、時点をとらえて測定することができていないことになります。
白木信:はい、軌跡は取っています。
吉澤正孝:物理的な測定は一応大丈夫です。だけど機能の測定となると問題だということですね。
白木信:ここの地点に来たよというのをどういうふうにしたらいいかが問題です。
中島建夫:スタートポイントとそれから経過の位置とエンドポイントが測れるということですね。ここでの機能は最後の点だけなのですね。途中はどうでもいいということでしょうか。
白木信:そうです。途中は構わないです。
中島建夫:だけどやっぱり、すっといった方が早く着くからエネルギーも少ないし、その方がいいのではないですか。
白木信:動作時間は別途計ります。その前に、まずは座標の測り方が問題です。
中島建夫:なぜ、それだけに限るのですか。本来は、そうではないのでは。一番少ないエネルギーで目的地につく方がいいはずでは。
目的地点で揺れるロボット
吉澤正孝:目的地に到達しても、ゆらゆら、揺れていては困るわけだ。
中島建夫:そう、揺れは困る。それをなくしたいのですね。
細井光夫:各点を0.5秒くらいで次に行ってしまうから、5点で測ることが問題をややこしくしていると思います。1点だけにすればいいです。その点に止まったら時間を置けば振動は止まりますよね。
白木信:それだと、作業の行きたい所へ行くことにたいする考慮ができないです。
細井光夫:次の点への移動は誤差因子として扱えばいいです。続きが見たいのであれば、1点ごとに止まってから測って検討したらいいです。計測の仕方はシンプルにした方がいいと思います。やりようはあると思います。
鴨下隆志:計測の誤差ではなくて、位置決めの誤差が時間に依存するのですよね。だから0.5秒だったらこのぐらいの精度になりますよ。1秒かかればここまで良くなりますよ。そういう話になりますね。実際にやりたいのは、早ければ早い方がいいわけないのだけど、今の状態だと変な揺れがあるのでうまくいかないです。たぶん、時間に依存しちゃうからそこをなんとかしないとSN比で評価しても問題があるということです。1時間後にぴったり止まって実用にならない。その辺をはっきりさせないといけないです。
吉澤正孝:今どうしていますか。何分か止まっているのですか。
白木信:止まる時間は、今回はゼロです。
吉原均(司会):最終的に止まった位置を知りたいというのは、今回のテーマの目的ではないようですね。そうではなくて、指示した座標がここなのに、実際の位置はここにいたよと、そのずれ分、機能性が悪いよと、それが分かるということを実用的なスピードとタイミングで、機能性として評価をしようとした、そういう理解でよろしいですか。
白木信:はい。
吉原均(司会):ロボットを開発するならば意味が違うけれど、この場合は、運用面でユーザーとしてロボットを使うという立場ですよね。指示値に対して与えた動作条件の中で止まった位置がどのくらいずれたかというのを、ロボットの機能性として評価したいとなるのでしょうか。
白木信:そういう意味では、ユーザー側として使いこなしの評価になります。
細井光夫:大型トランスファープレスでは、ロボットで鉄板を挟んでさっと動かして、次のプレスに持っていくのですが、この鉄板の重さは変わるので、誤差因子です。どんな重さでもある時間でさっと運んで、いい所に置かないといけない。その場合は、加減速制御をおこなっています。ただ行けばいいというのではなくて、重さを誤差因子にして、停止位置を制御するのに、いかに加減速カーブを作るかが課題になります。クレーンで横に行くときに何も考えずに持っていくと揺れてしまいます。クレーンは、揺れないように制御している。ロボットも一緒です。先ほど鴨下先生がいったように、時間軸でみていて揺れが止まる時間が0・5秒なのか0・1秒なのかは結果であって、今実力として振動が何秒ぐらい残っているか測って評価してあげたらいいです。そうすれば全体システムとして対応する余地が生まれて、アイデアが出てきます。実際世の中それで改善している例があります。
鴨下隆志:今このままだと、ここにいけといったのだけどフラフラしているから、本当にそこに行っているか分からないですよね。だからその誤差はどこにも入ってこない。真値に相当するような指令値に対してどれだけずれているかが、今分からないわけですよね。計測誤差が一緒に入っちゃっているから、極端な言い方をすると、ゆっくり止まった所の位置をみて、今止まったから測ると本当にそこに行ったかがまず分かる。そうすれば、指令値に対してどれだけ差があるかが分かるわけですね。でも、今はそれも分からないから困っているわけですね。フラフラしているから止まるまでほっておくようにしたらいいのかな。
白木信:停止時間とかあるいは、どのくらいの単位までしたら停止したと判断するか、その辺の兼ね合いもこれから考えます。
吉原均(司会):このテーマの初段としては、これまでロボットの機種選定を十分な検討した上で、行うことができていなかったので、それを機能性評価で選べるようにしたいというのが最初の動機としてあったわけですね。
白木信:全体的なテーマとしては、製造ラインで使うときにどの機種がいいのかを決めるのに、損失まで考えて選ぶ基準となるようにしたかったのです。そのロボットの評価方法として、このようなことをやったというわけです。
吉原均(司会):その機能性の評価を検討するにやってみたら計測の問題が山ほど出てきたということですね。
白木信:そういうことです。
計測器の精度
吉澤正孝:繰り返しますが計測はできているようですね。しかし、その絶対量が良いかどうかという議論がもう一つあるわけですね。ロボットの軌跡があるのだけれど、その物理量が正しくできているかということをもう一つ議論しなければいけない。物理量が、どのくらいの精度で測れるかです。計測器としての、動的な精度の確認は必要になりますね。
吉原均(司会):そちらに行く前にちょっと待ってください。中島建夫さん、機能の話はこれでよろしいですか。
中島建夫:計測方法が分からないです。
吉原均(司会):ではまた機能の話に戻る可能性がありますが、計測の話を進めていきたいと思います。測定器の精度はどのくらいあるのでしょうか。資料からは、測定器として使用したレーザー変位計の測定精度は±8μm、機械原点精度は1μm、サンプリングの分解能は1600回/secですね。
細井光夫:むしろ、それはすごい。
鴨下隆志:サンプリングといっているのは、サンプリングタイムですね。
白木信:はい。座標のサンプリング数になります。
吉原均(司会):どこで停止したかは分からないなりに、絶対値は別しても、相対的にはどう動いているかを、±8μmの精度でとらえられるということですよね。
細井光夫:それだけ精度があれば、十分評価できると思います。
白木信:最後の点がどこなのかというのが決めきれないのです。
中島建夫:だったら振動は関係ないでしょう。最後だけを測ればいいだけでは?途中を測るのはなぜですか?
吉澤正孝:途中を測るというのは、ここで作業をしたい、ここでも作業したいという項目があるからで、そのような場所が何カ所かあるから、すべての条件でテストするのをやめて、信号因子として5点を選択している。移動するのかだから、途中のデータも計測していることになる。
中島建夫:ずっと途中も測っているでしょう。原則的に。
白木信:測っていますけど、目標の点まで行く途中は全然関係なくて、点の近くまで行ったときにここでフラフラ、最後ここで止まるよといったときにフラフラとしている。制御と重さで振動が決まってくる。
中島建夫:その辺をどうしたらいいのかは、制御システムの話なのだと思うけど。そもそも、あなたの考えているのはどういう機能ですかというと、最後のポイントに一致するかどうかであって、機能の安定性すなわち機能性というのはそこからの偏差の二乗和でみるとかね。
細井光夫:そんなイメージですね。
中島建夫:そういうことならば分かる。
吉澤正孝:実際に動かしているわけだから、何分後に、ここだということが分かれば、ばらつきは取り出せる。
白木信:ちょっと、グラフを出します。
吉原均(司会):先ほどの時間と座標のグラフですね。
中島建夫:一番右側はどのあたりの動きですか?
白木信:そこはもうスタート点からはるか彼方で、ここはだいぶスピードが落ちていた所です。目標値はこのあたりですが、そこに近づいてきたのでだんだん遅くなってきています。
細井光夫:なぜこっちに揺れているのでしょうか。寄っていく方向ではないです。
白木信:よっていく方向ではないので、揺れている状態です。
細井光夫:何でそこで揺れるのでしょう?スカラー型のロボットだからそうなるのでしょうか?
吉澤正孝:軸のモーメントによって現れるのではないですか?
細井光夫:グラフにある・~・は何でしたっけ
白木信:速度の変化のグラフで、数字はちょうど速度ゼロになって変わる所です。
吉澤正孝:最後のところは結局、揺れていますね。
吉原均(司会):グラフで・の位置から速度が急に上がっているのは何ですか?
白木信:次の点に向かう動作に移ったので速度が上がっています。
吉原均(司会):なるほど、ときが来たので、次の点に向かう動作司令が入ったということですね。
白木信:グラフの・の手前あたりが目標点の近くなのですが揺れていて、たぶん、ここのどこかが止まる点なのだろうということですが、じゃどうしようかということで困ったのです。
吉原均(司会):停止の定義をどうするかということはすごく重要な問題ですね。
細井光夫:途中の揺れている所まで全部丸々評価すればいい。
白木信:いいのですけど、それも結局、計測誤差も入ってくるわけです。あと揺れるかどうかというのは、おもりの重さによってすごく振れるものもあるし、そうでもないものもある。
細井光夫:それは、機能性の評価です。2つのロボットを比較して、よりピタッと止まるほうが良くて、振れているほうがだめだとみればいいのでは?
白木信:そういうわけではなくて、使いこなしとして両方あります。
細井光夫:機能性評価というからには、2つを比べてどちらが勝ちというベンチマークでしょう。
鴨下隆志:この場合は、決めるのが目的ではないでしょう。
ロボットを使いこなしたい
白木信:決めるのもあるし、このロボットを決めたというときは、どうしたら使いこなしていけるのかという課題もあります。
細井光夫:それは許容差設計です。
白木信:使いこなすのができるのであれば、制御因子にあったような使い方でより精度良く使えばその使い方を採用したいわけです。
細井光夫:要するに、その速度以上早くてはダメということになるから、許容差設計だと思います。
吉澤正孝:チューニングですね
細井光夫:それ以上早くてはダメとか、ここは直線で行きなさいという話になります。
鴨下隆志:この要素は効くよとか。ここは効かないからとかですよね。
細井光夫:そうです。だから、許容差設計だと思います。本来はすべての位置、すべての速度で使えなければダメなのだけれど、このロボットを使いこなすには、これ以上のスピードを出すと揺れちゃうからスピードを遅くして使いなさいというように。あるいは、このエリアの端っこは精度が悪いので、端っこを使うのは、やめましょうとかいうことがありますよね。
吉澤正孝:許容差は、目標値に対してプラスマイナスになります。速度をいくつにしたいのかというのは、こういう使い方だったらこうしなさいというのは、目標値の設定になります。
細井光夫:ここら辺は精度が良いからそこを中心に使えば良い、ここは精度が悪いから使わないという使いこなし方もあります。
吉澤正孝:もし、止まったかどうかだとすると、その決め方は、次に移動する直前が止まっていると考えてみたらよいのではないか。到着したらそこは次の出発点だから、移動の指令値が入ってくるから、その指令が出される前の何秒間を測ってみるというのがありますよね。
白木信:それもあります。
吉澤正孝:そういった場合の基準値が決まればその時間帯のXYZの位置を読み取れば、ばらつきも計算できますよね。
中島建夫:ハンチングが起きているのをどうなるかがある。例えば、エレベータでも上るときに加速するから、そのままでは、止まる階でハンチングを起こしてしまうので、途中で加速したらその手前で速度を落とすなどしている。これは、制御因子の範疇だけどね。ハンチングは、偏差の二乗和というか、誤差分散だよね。誤差分散で評価するのが機能の機能性の評価ですよ。
細井光夫:そうですよね。誤差分散の評価になる。われわれはどちらかというとロボットを作る立場なので違いますが、この場合は、使う立場なので、もっとシンプルに評価すればいいです。値段とSN比のバランスの良いものを購入すればいいです。使い方をいろいろ想定して、いろいろな動かし方で最後の振動まで含めてバランスのいいものを選べればいいです。ちなみに指令値の分解能はどれくらいですか。ロボットは関節についているエンコーダーで計算しているとしてミクロンレベルでしょうか。
白木信:サーボが効いているのだとすれば、10μmくらいの分解能は出ていると思います。
細井光夫:最終的に欲しい精度はどのくらいなのですか。
白木信:ロボットなので数十μm単位で欲しいです。
鴨下隆志:ロボットの作業というのは、最後は止まっていないとできないのですか。
白木信:それは作業に求められる範疇で、位置決めができれば許容できます。
吉原均(司会):例えば、組み立てたスイッチを箱詰めしますというのであれば、スイッチがちゃんとつかめて、箱詰めする所定の位置に置ければ、別途中で振動していても、いいわけですよね。
ロボットとハンド
白木信:そこで、振動しても、すとんと箱に入るように、ロボットの腕の先に付くスイッチをつかむハンドをどのくらいにするのかというのが別検討課題としてあります。
吉原均(司会):その立場でいうと、このくらい揺れてもいいのに、何で停止にこだわるってそこを突っ込んでくるのだよといいたくなりますよね。
細井光夫:機能性評価で大事なことはどこまで許すのかです。トータルシステムで何かを達成しようとしたときのロボットの部分はサブシステムですよね。サブシステムに要求される精度に対して十分なSN比があればOKだということになるから、もうちょっと用途を決めて、具体的な目標値があれば、良い悪いは判断できると思います。
白木信:ねじ締めとかで使うならば、やっぱり100μ単位ではちょっと無理で、10μ単位で精度が求められる作業になります。そこまで本当に必要かどうかというのはあるかもしれませんが、評価するために測定するには、10μ単位の精度で測れていないと役に立たないと思っています。
細井光夫:揺れまで全部測れるということも含めてですか。
白木信:そう思っています。
細井光夫:8ミクロンの分解能で振動を取っているのだから、このまま評価すれば十分機能性評価になると思います。
吉澤正孝:計測法としては十分ですね。実際±8μmだから、分散でいえばその1/3ぐらい。実際は2、3μm位まででている可能性がある。機能を測るのであれば計測としては良さそうだ。
白木信:止まっているというのはどう定義するのという読み取り方の問題なのです。
吉澤正孝:機能を測る問題では、物理特性の計測が前提なのだけど、どういうふうに機能の発揮の基準を設定がいつも問題となる。ロボットの機能をどのように考えるかは、その用途から機能要求がことなる。今回の場合は、止めて作業をすることが前提となっているが、移動速度なども要求機能となる場合もある。移動や停止が要求されるとなるなら、速度の信号が必要となる。
白木信:ここでは、動作の指示の方の時刻と実際の動きの時刻が合わせられてないので、そこがちょっと分からない。そこが合わせられれば、同じ時刻同士のずれをみることができるようになります。そこがまだ課題です。
吉澤正孝:あとは、次のパルスが出ているからパルスが出る前の所を止まっているということでみるとかが良いのかもしれない。
細井光夫:ロボットの時間分解能が信用できるならそれを基準でやってもいいのだけれど。ロボット側でシーケンサー的な制御をやっていると、サンプリングタイムにばらつきが入り、あまりあてにならない。
白木信:そこまでだとロボットメーカーに聞かないとなかなか分からない。
細井光夫:ロボットの制御だとたぶんマイナーループはともかく、ロジックの方はある一定間隔でサンプリングしているはずです。
吉澤正孝:使用者は、どういう制御しているのか分からない。
細井光夫:最近のは速いから、すごくシンプルに評価できそうな感じがします。次の点に向けて動き出していることが分かっているから、そこから、遡ってこの辺で止まってくれないと意味がないという所を決めて、あとはXYZのデータ全点の分散を評価すればいい。
白木信:止まりたい所に対してどこで停止したとしないで、その範囲での揺れの広さが狭い方がいいと評価するということかな。
吉澤正孝:そういうイメージですね。先ほど行ったように、移動寸前の位置を仮に基準として、その前のどの時点の何秒間という範疇でフラフラ動いてどのくらいばらついているかが、分かれば機能性の相対比較ができる。
細井光夫:中島建夫さんがいっていたように、平均に対してどれだけ揺れているかというのをみて、平均と本当はここにいてほしいという点からのずれをみて、その2つで評価すれば、機能性評価ができそうな気がします。
白木信:スムーズに移動しているというのは、フラフラしないですっと来て、すっと行くということだから、当然エネルギー的にも良いことになる。
中島建夫:そうなのです。ゆっくりやれば絶対振動しないよ。ハンチングして早く収束させるのか、ハンチングしないでゆっくりすっと入れていくのか、どっちがいいのかは時間に対するばらつきの評価をしないと分からない。
吉澤正孝:計測というのは、尺度は何ミクロンといことなのだけど、絶対的な位置を測るには、必ず基準がある。物理特性の測定は、スカラー量であり、データムポイントを明確にしないと測れない。現在の機械製図の、形状公差の基準をえるのに、必ずデータムポイントを指定する。それは、その品物の寸法の基準面が歪んでいると、測るたびに値がことなってくる。最低3点、あるいは多点を拘束した面を基準とするようにしています。機能性を測るときもこれと同じです。ゼロ点か基準点を決める必要があります。それによってゼロ点比例式か基準点比例式かの機能性評価の方法も変わってくる。基準的をきめることは信号因子を定めるためにも重要になってきます。
機能の定義と機能性評価
細井光夫:機能性評価といったときに、機能性評価だけが独立しているわけではなくて、機能があってこその機能性だということに改めて気づきました。
中島建夫:機能が分からないのに、機能性なんていってもしょうがない。
細井光夫:そうですね。当たり前ですよね。
吉澤正孝:結局、機能の定義を明確にしなければならない。これは技術開発の基礎であり、結構曖昧にしたまま開発が進んでいることを感じます。
中島建夫:機能が、ノイズによってばらつきかないのが機能性だといわれている。機能がはっきりしなかったら機能性が分かるわけがないです。
細井光夫:この事例は、ある場所に行って、そこで止まるというのを機能にしているということですね。それとは別に、軌跡制御というものがあります。軌跡に乗るというのが機能で軌跡からのずれが機能性になる。
白木信:あの軌跡の場合って、軌跡が完全に一致しても、時刻が遅れているとか、進んでいるとかの場合もあります。
細井光夫:ありますね。
白木信:それに時間軸も入れて、ある直前の座標が場所によっては行き過ぎたり、行かなかったりするでしょうから、そのばらつきの良しあしもみる必要があります。
細井光夫:当然そういうことです。停止点だけばらつきがなければいい、軌跡もばらつかない方がいい、思い通りの時刻に思い通りの場所にいてばらつかないほうがいい、という3段階があるということになります。それに応じて機能性の評価が違ってきます。
吉澤正孝:そういう場合ですが、つまり形状(プロファイル)の歪みの計測が難しいです。つまり、まったく、相似している場合、ばらつき問題でなく、中心値の問題で、比率で調整すれば良いです。実際は、形状の大きさと歪みがあります。相似の比率が感度となり、感度を補正したあとの形状のばらつきを測るようなことをしなければいけないから、単純に感度といってもβにはなりません。そこで形状の距離としてあらゆる方向に分解し、スカラー量にした上で相似性を測る工夫をしたのが、標準SN比になります。しかし、直線ならよいですが、曲線や局面などの形状は辺にするにも工夫がいります。信号としての形状のデータムポイントを信号とするような工夫が必要です。そのような場合、結局、形状をはかるという目的機能を明確化しておく問題に帰結していきます。製図法などとの関連もでてくるかもしれません。形状を形状のままで相似性を測るような計測方法が議論されてないのです。
細井光夫:停止点も同じです。安定するけれどずれていたら、ずれの分だけ補正すればいい。
吉澤正孝:というときをどういうふうにSN比で表すのかということです。
細井光夫:そう考えると、この場合の機能性とは揺れだけのように思います。
吉澤正孝:そうですが、プロファイルを補正しなければならないです。
細井光夫:停止機能で考えたら揺れだけですよね。その結果、止まった位置がずれていたらあとで補正をかければ直ります。
鴨下隆志:感度のベータが完全に直線だったらですね。
細井光夫:揺れに加えて、完全な直線でなくても、ばらつきなく同じ位置に止まることも必要ですね。
吉澤正孝:だから、5角形の座標の位置を辺として、指定した長さに対して比例関係があるかどうかだということがあって、それの5角形の、基準値からの距離の平均値を求めないといけない。そこからのずれが一律であれば補正することが可能となります。
中島建夫:1次元なら簡単にできるけどパターンだから違うのですね。
ロボットの動作のばらつきと要因効果
吉原均(司会):白木信さん、今のやり取りに乗っかっていいますが、ロボットの動作のパラメータを振って評価していますよね。資料には、そのパラメータの割り付け表を制御因子としていますが、ロボットに作業としてやらせたいことを考えたら、動作パラメータは制御因子ではなくて、使う立場としては誤差因子にみたてて、その動き方をさせてもちゃんと動くロボットが欲しいのではないですか。本当は、ちゃんと動くロボットをロボットメーカーに持って来いといいたいわけですよ。
吉澤正孝:作る人からすれば、こういう使い方をするから一種の信号と考えてもいいと思います。そういうふうに考えたときに、すべての形に対してうまく動いてほしいことになります。
吉原均(司会):そうですね。誤差因子ではなく信号因子ですね。
吉澤正孝:ハンドの重さだけは、取り付けるワークの重さだから誤差と考えていいと思います。あとは、信号ですね。そういうことがきちんと行くように腕の強度とか間接の強度などを設計しないといけませんね。
細井光夫:要因効果を見せてください。
吉原均(司会):白木信さんすいませんね。たぶん議論の方向が、こんなはずじゃなかったという形で進んでいると思います。これがNMS研究会のくせなのです。ごめんなさい。
細井光夫:SN比は、ハンドの重い軽いは軽い方がいいと出ています。
吉原均(司会):要因効果がきれいに出ていますね。
細井光夫:使用腕は、根元を使うか先を使うかの違いですかね。
吉澤正孝:軽い方が良いというわけですね。
吉原均(司会):一番効いているのは腕の重さです。
細井光夫:回転方向の違いのSN比と、指令値通りかどうかの転写性のSN比では、上の腕を使うか下の腕を使うかで違いが出ていて、傾向が逆転している。
中島建夫:これは最終のポイントの所で偏差をみているの?
白木信:この5カ所の座標の回転方向による差分でみています。箇所の座標を順に移動するときに、右回りと左回りで動かした場合にずれているので、その違いでみています。
中島建夫:データとしてはどう何データを取っているのですか。
白木信:データとしては、それぞれ右回り左回りで5回分の平均の差を取っています。XYの距離でみています。
中島建夫:一つのポイントで、X座標の値とY座標の値でデータは2つあるわけ?
吉原均(司会):距離とは、どことどこの距離を距離といっているのですか。
白木信:右回りと左回りのときに、通過する所が一致せずに、ずれているので、そのずれ量を距離として求めました。
中島建夫:ばらつき幅をいっているのか、それとも点と点の間の距離をいっているのか?
白木信:ばらつきです。右回りと左回りでばらつきます。
細井光夫:ばらつきは狙い値からのずれであり、振動ではないようです。
白木信:はい、ずれです。振動ではないです。
吉原均(司会):例えばこの点が、右回りにこっちから来たときに測ったら座標がいくつだった。また左回りにきたときに測ったら座標がいくつだったということですか。
白木信:そうです。
吉原均(司会):ということはばらつきということ、指令の中心値とターゲットからの目標値に対するばらつきの量を距離としてみているとこですか。
中島建夫:実際には、ターゲットからかどうか分からない。ターゲットからのずれは補正できるからばらつきだけみていることになる。
吉澤正孝:5角形が歪んでいようが、なかろうが関係ないということです。
白木信:右回り左回りで、同じ場所を通っていますかという差をみているだけです。
細井光夫:そうすると不思議なのは、要因効果で速度が効くはずなのに、効いていない。それは振動成分を無視しているからだと思います。振動も評価したほうがいい。
白木信:それはあります。平均を取ったので、それで振動を無視しています。
細井光夫:そうでしょう。速度が速いと振動が残るから、速い方が絶対不利になるはず。
白木信:5回の繰り返しの所が、速さと振動がすごく出ていて、そのために再現性が最適条件はすごくギュッとまとまっているのですけれど、比較条件の方はバラバラになっているというのがより極端に出ていて、確認実験で利得が出すぎて、逆に再現性が悪くなっています。
細井光夫:素直に振動を評価するほうが簡単でいいですね。
吉原均(司会):要因効果図が繰り返しによるばらつきのSN比、回転方向違いによるばらつきのSN比、転写性のSN比と3つありますが、この中でどの要因効果図が一番信じられる結果になったのですか。
白木信:再現実験の結果から、転写性のSN比が、一番再現性がいいです。繰り返しによるばらつきのSN比の確認実験では、最適条件のSN比が良すぎで、比較条件のSN比が悪すぎる結果となり、利得が上がりすぎて再現しなかったです。
吉原均(司会):繰り返しは利得が再現してないので良くないということか。
白木信:利得が良くなりすぎです。効果が極端に出すぎてしいました。回転方向と転写性はそこそこ再現しました。
吉原均(司会):手堅く使うなら、転写性のSN比の要因効果図に基づいてロボットの動かし方を基本にチューニングしたらいいですよということになるのですかね。
どこが停止なのか
白木信:まあ、そうですけど。もっとよく考えたら、今日の最初の話で、どこを停止とみるかの問題が出てきて、停止点が暴れているのが、うまく評価できていないことになるらしいということで、計測が大変だなということが分かったということです。
吉原均(司会):それで動きが止まってないといことに問題があるということに、なるほど。
白木信:どこを停止とみればいいのかということになりました。これからある程度ルールを設けて読み取りはしたのですけどそれもうまくいかなかったです。それが誤差の原因かなと。
吉原均(司会):そういう意味でいうと、実際の動きの繰り返しをグラフで重ねると、様子が違っているとかあったのですか?
白木信:それはやりました。5回の動作を重ねたグラフを作りました。そのグラフをみると点ごとに、ばらつき具合が違っていました。
細井光夫:このグラフはどうみるのですか?
白木信:A点のグラフでは、同じ向きの軌跡が5回通ったときの動きを書いてみると、こんなにずれているのです。
細井光夫:縦横はXY?
白木信:そうです。
細井光夫:止まる瞬間ということですか?
白木信:この頂点あたりが、たぶん止まる点だと思われます。
鴨下隆志:その点を全部使って、ばらつきを求めているのですか?
白木信:もう少し絞っています。ある範囲だけを取って、平均で座標を決めています。
細井光夫:その点で、SN比を求めたのが、先ほどの繰り返しのSN比ですか。
白木信:そうです。
細井光夫:それは再現性が悪いはずです。
白木信:このグラフはかなり暴れる条件の軌跡だと思います。
細井光夫:これがずれちゃっているってことはどういうこと?
鴨下隆志:ロボットが指令の所に行ってない。
吉澤正孝:行き過ぎているか、手前になるかだと思います。
白木信:手前でも、そこに行ったつもりで、次の点に行こうとしているとか。
吉澤正孝:実際、動いているようなものから、このような繰り返しがあるとばらつきがあるということになりますよね。
見原文雄:いっぺんに5周したということですか。1周ごとに原点を取って位置補正はしているのですか?
白木信:原点を通って右回りして左回りしています。1回ごとに原点に戻していると思いますが、今ちょっと分からないです。
見原文雄:1回ごとに原点補正をして、1回ごとにこのくらいばらついているということですか。
細井光夫:ロボットが行ったと思っているのは、エンコーダーの値から計算しているということ?
白木信:行ったと思っているから、5角形の次の点に移動しています。
細井光夫:ということは、ばらつきは機械剛性の問題ということ?
吉澤正孝:剛性の問題もあるけど、摩擦問題とかいろいろあるのではないでしょうか。
見原文雄:途中で1回も原点を通っていないなら、累積しているかもしれないというのもあるでしょう。
吉澤正孝:それもある。
吉原均(司会):グラフは5角形の5点のうち、A点とE点を表していますが、E点の場合、一本を除くと比較的そろっているじゃないですか。
白木信:そうですね。
吉原均(司会):この一本だけ動かしたときとき何かあったのではと気になりますね。A点のグラフでもE点で動きがずれたときのデータがあるでしょうから、それはどれかも気になります。繰り返し実験でデータを測定するときの繰り返しの正しさに問題がありそうです。
吉澤正孝:でも値が累積するという問題は、誤差が積み重なって大きく出るということならば、悪いやり方ではないかもしれない。
繰り返しの悪さを知る
吉原均(司会):誤差として5周与えて、1周目でも5周目でもそろっていればいいという見方をするのが意図としてあればいいのかな。
吉澤正孝:誤差の累積は、結局、基準点をずらす問題と等価だから、通常はロボットアームの原点を校正しなければなりません。毎回、確認しなければいけないのですけれど、必ずしもそうじゃない場合もあります。
細井光夫:n増しで測定してSN比にするのは、あまり好きじゃない。現実問題として、よくやってしまうのだけれど、あまりいい思い出がない。
鴨下隆志:それは絶対だめですよね。
細井光夫:だめですよね。
鴨下隆志:要するにnが無限大になればゼロになってしまう。そんなことはありえない。それはもう絶対nで稼ぐのは良くない方法です。
細井光夫:そうなのですよ。
鴨下隆志:そのためには、やっぱりそれぞれの線がどれだけずれているかということを評価しないと、繰り返し数nではだめですよね。さっきいったように、5角形の形のずれがどれだけあるかということと、それからばらつきと両方を評価しないといけない。
吉澤正孝:5角形の評価をするにしても基準点がない。計測のサンプリング誤差が入ってしまう。前にもいいましたが、止まったという時点が決まれば良いのですが。
鴨下隆志:それも含めて入っちゃいますね。
吉澤正孝:そう、それも含めた上でのSN比になってしまう。そういう考えればそういうSN比もあると考えます。そうなったら、絶対値でなく、相対的に何db以上良くなるならロバストな条件だと考えてもいい。
鴨下隆志:だから、SN比はもう10db上げるのだったら、1秒間に何回計測しなさいとか、そういう形になっちゃいますよね。
吉澤正孝:むしろ今やったことの再現性の確認実験でSN比が再現していれば今のサンプリングの誤差があっても改善効果はあります。まあ相対比較だということで考えてそれでもいいのではないでしょうか。そういう場合は、計測器の絶対条件と違うから、通常の計測問題とは異なった考え方を取らないといけないと思います。
白木信:測定器そのものの繰り返しの悪さと、対象そのものの繰り返しの悪さと両方があります。
吉澤正孝:サンプリングの問題も入っている。みんな入っていてなおかつSN比に差が出たということは、そういうものを含めたノイズに対する相対評価をやった結果となります。実験計画法のL18では、同じ水準は6回繰り返されるから、1実験のあやまりは、1/6に薄まります。そのような誤差がはいっても、水準間に大きな差があり、確認実験で確認されれば、効果はあったとみてもよいです。
吉原均(司会):このデータはL18の何行目かのデータということですか。
白木信:何行目かのデータの繰り返しです。
吉原均(司会):そうすると最適条件でこのグラフを作ったらどうなりますか。
白木信:もっときれいに出ます。資料にはないですが、最適条件ではまとまっていました。
比較条件の方はかなりばらついていました。
細井光夫:それが暴れてしまうということは何ですかね。
白木信:ハンドの重さの影響が、かなり効いているのだと思います。
吉澤正孝:移動の慣性があるからそれの履歴をどうするかです。逆にいえば、ロボットの方が自分のアームの重さを把握して、自動的に制御できるというふうになっていればいいのだけれど、たぶんそうなっていないと考えておいた方が良いと思います。ロボットがそこまで賢いと良いのですが。あるいは繰り返していったときの状態がどうもおかしいという履歴を解析して、それについて自分でパラメータを変えられるなら自動学習型ロボットになる。そういうロボットを開発してもいいのではないかと思います、小松はすでに取り組んでいるように思いますが。
細井光夫:パワーショベルのバケットの重さが客先で変わるので、バケットの重さを誤差因子にしてロバスト制御をやっています。
吉澤正孝:それ、いいですね。バケットの重さを検知して...
細井光夫:その代わり、精度が10cmというレベルです。(一同笑い)
吉澤正孝:それは、損失関数が違うからですね。
細井光夫:建機が10cmの精度で面を作ったらきれいですよ。
計測自体には問題がないけれど
小川豊:基本的なことで申し訳ないですけど、今の議論からすると計測自体には問題がないけれども、その計測データをどう処理するかという所がポイントだということですという議論でいいですか。
白木信:そうです。読み取り方です。グラフから読み取るときの議論がそこからどこの部分が停止の区間とみるかということです。
小川豊:5本のグラフがこれだけ違っているけど、この違いをSN比という形でうまく処理すると、最適条件を求めるのに有効だという考え方という捉え方でいいですか。
細井光夫:繰り返しをSN比の計算に使っちゃうと再現性が悪い。
吉原均(司会):いっぱいデータを取ればいいというじゃないのだという教訓があるわけですよ。
細井光夫:やむなくそうすることが、多々あるのですが、たいてい結果がよろしくない。
小川豊:ちょっと変な話ですけど、この5本のグラフが何によって振られているのかというのは、何か別にもう一つ問題があるのかと。
細井光夫:たぶん他に誤差因子があると思います。エンコーダーがピッチ飛びしているとか何か分からないけれど、バックラッシュが影響しているとか技術的な理由があるのでしょう。
鴨下隆志:脱調とかないのですか。
白木信:そこまでは…
細井光夫:可能性はあると思います。左側の3本が良くて、右側の4本までは良くて、左側の4本目で飛んじゃって、それ以降は右側でも飛んじゃって、戻ってきてもやっぱり飛んだままという感じがありそうです。
吉澤正孝:あとは、どこかでフィードバックしているのかどうかという話になりますね。
鴨下隆志:位置制御してないですよね。だから脱調したら戻ってこなくてどうしようもなくなってしまう。
吉澤正孝:あるいは、現在位置を基準として、あらかじめ設定された位置に移動するための、計算をおこない、 PID制御でその通りになっているという前提のもとで移動させたら、そこでおしまいみたいになっているとかですね。
細井光夫:優しい条件にすれば、脱調なんかしないので、そうすると再現性が良くなりますよね。
吉原均(司会):機能性評価という意味では、ユーザーとして本当に自分たちの仕事に使える物なのかどうかっていうのを最も知りたいわけですよね。そうすると、それなりの自分たちの中で最も厳しい使用条件を与えて、それに耐えてちゃんとした結果を出すという所を見極めたい所ですよね。
白木信:それと、停止している状態でどうするのというのが使う側がちゃんと定義しないと。それはユーザーの責任ですね。
細井光夫:そこで気になるのは、現実が揺れていることです。止まっていればここに止まっているとしていい。揺れているものを止まっているように計算するとおかしくて、揺れていても止まっていても素直に計算すればいいだけです。
白木信:停止の定義をどこかのポイントで決めるというか、今いわれているように、この範囲からこの範囲というふうに決めます。
細井光夫:時間軸で評価しないといけない。それは次のステップだとおっしゃっているので、次のステップを早くやりましょう。
白木信:やっぱり、機能をどうとらえるかというのをきちんと自分たちで考えないと測定データから読み取ることもできないのだなということは、まさに感じている所です。それはまさに揺れる範囲をどうするかですね。
吉原均(司会):半導体製造のオングストロームの領域だと停止ということ自体がないといわれています。
細井光夫:そのため、ステージはすごい制御で動いているそうです。
吉原均(司会):というのもあるので、ユーザーの要件に合った停止いう定義を明確にした上で評価しておかないと。ただ、5角形で動いたときにこういう状態で動いて与えた猶予時間の中でたぶん、許容差設計が必要になると思いますけど、その範囲の中に収まっているのは停止とするとは十分ありなのかなと思います
細井光夫:それは最後のチューニングの話であり、機能性評価はその前段階の気がします。
吉原均(司会):そうか。そういうことになるのね。
細井光夫:機能性が良ければチューニングの範囲が広がって現場でチューニングできるし、機能性が悪ければチューニングしたって入らなくなっちゃう。
取引は機能性のデータで
吉澤正孝:機能性の話にもどりますね。機能性を議論する前に機能を明確に定義することが大切になります。機能の定義は、目的機能と基本機能と汎用機能と理想機能と4つがあります。それを一個一個議論して明示化することになります。文章で記述しないと、それが良いかどうか評価できません。機能が定義できれば、それをどう測定できるのかという計測問題に置き換えられます。機能は働きですから、働く原点と機能が欲しい範囲が必ずあります。ロボットの場合ですと、基準点をきめ、どの範囲まで動くのかを決めなければなりません。その範囲や顧客や次工程などの目標を変える範囲で、目的機能と対になっています。機能性は機能の働き具合ですから、その範囲中でどれだけの精度があるかということになります。
しかし、現実には、機能の定義が重要ですが、ソフトウエアの方々以外は、あまり機能を議論していないように思います。実際、あるメーカーのマネジャーの方とお話したとき、機能を定義できない人が大半だといっていました。そういう意味での難しさがあるのだと感じています。
細井光夫:機能性評価というときに、品質特性でも機能性評価はできるのでしたっけ?
吉澤正孝:品質特性の多くは、機能のあるレベルを管理基準やスペック値で切り取り決めているものがおおい。そういう意味では機能を計っているのだけど、機能の全領域で良さを測っているわけでないものが多い。
鴨下隆志:取引のための機能性評価だったならば、品質特性でもいいわけですよ。
細井光夫:ということですよね。そうしたいのならば、今日のテーマは取引に近いです。出来合いのロボットから、これを選びたいということになります。
鴨下隆志:でも、実際はいい条件は探したいということもあるわけだから、現段階では取引を考えないで本来の考え方でやっていこうという姿勢があるわけですよ。
吉澤正孝:それにカタログでは、プラスマイナスいくつだといっても、使用する環境条件などノイズを入れた評価をしているか疑問です。結局、ユーザー側が使用ノイズを入れて機能を確認しなければならない。やっぱり機能を測らないといけない。
細井光夫:システムとしてみたら、ロボットにお任せではなくて、その上に自分たちの何かをかぶせようと思っているから、その分は制御といえば制御ですね。
吉澤正孝:今後、白木信さんのところと商売するようになるということは、将来は機能性のデータを出せといわれるようになるということですよ。こういう測定でやってくれということになる。あるいは、機能性評価を購入前におこなうということです。すでに品質工学を導入している会社では購入部品の機能性評価の取り組みをはじめている会社もありますね。
白木信:そうなりたいです。
吉澤正孝:結論的にいえば、購入の値段と購入後の損失の合計で評価する。損失関数を基準に購入品を決定することが、ユーザーとしては賢いやり方ですよ。
中島建夫:カタログに機能を書くということか。
吉澤正孝:カタログは参考にするが、購入時はこういうことを調べてくれということになる。
白木信:L18の直交表に割り付けてこういう実験をやってデータを頂戴といえばいい。
中島建夫:実験のやり方を指定するということは、機能を指定することになるわけ?
吉澤正孝:ほとんどの因子がユーザーからの条件だからノイズか信号因子になります。ずいぶん昔ですが、自動車の電子部品を作っているメーカーが、半導体の装置を買うときに、L18の条件を渡して、これで評価したデータをとるようにして、購入予定の装置を評価したと聞いたことがあります。高い装置だから、購入前に評価をしてから買うという、賢いやりかたですよ。
細井光夫:L18で出して来いと指示したら、要因効果を出すのと同じです。結局、要因効果図が描けますから。
吉澤正孝:そうです。知りたいノイズと信号を指示するわけですから。それを直交表に入れたら、要因効果が描けます。
細井光夫:●マツダがサプライヤーにモデルを要求しているという話と、要因効果はモデルだという話があって、つなぎ合わせると要は要因効果を出せといっているのかなと思います。要するに誤差因子を割り付けて、L18をやって来させて、それが来ればそのまま許容差設計の要因効果になる。
機能限界という崖を知りたい
吉澤正孝:現在は、M社は、ばらつきの度合いと崖を明らかにせよといっている。崖は、機能限界だから損失関数が簡単に求められる。あとは損失係数のAがわかればよい。それは社内のデータだから購入先には知られない。ばらつきの評価をノイズと信号条件で示せるのだから、結局機能性が裸ではかられ、しかも損失関数も明らかになる。賢いやり方だと思う。それを上級の技術幹部が指示をしているところがM社のすごさですよ。すでに新しい時代は始まっている。しかし、品質工学は汎用技術であり、専門技術もあまり世間にでないわけで、汎用技術はさらに外にはでてこない。本当の強さのところは、競合などは、わからないということになります。なかなか、品質工学がひろまらないところは、こんなところにあるのかもしれません。
細井光夫:使い方が決めてあれば誤差因子を決めてSN比が分かればSN比で比較できるのだけれど、使い方をあとから自分たちでもうちょっとよくしようと思うとSN比だけ分かってもあまり役立たなくて、もっと欲しいのは要因効果ですよね。要因効果をもらえれば、自分たちが手を入れたい所、自分でカバーする所は多少悪くても、たとえ揺れても別の方法で止まられるということがある。例えば、ある種の振動は自分たちがカバーできるからそこはそのままでいいのだけれど、大きくずれちゃうとか脱調しちゃうというのは困るという基準で選ぶのがいいかもしれない。
中島建夫:その場合の要因効果はSN比じゃなくて、出力特性yに対する要因効果図じゃないです。
細井光夫:そうかもしれないです。SN比の計算のもとになるやつです。
吉澤正孝:ノイズを入れたL18直交表の、直積のデータを出してもらった方がいいですね。解析しなくてデータだけで入手すれば良いわけですから。
細井光夫:そうすれば、自分たちだけで要因効果図を描けます。
吉澤正孝:それが一番賢いやり方です。相手が品質工学なんか知らなくたってやってもらえます。
吉原均(司会):ちょっと待ってください。その要因効果図が信じられるかどうかの問題じゃないですか。再現してなかったらだめです。
細井光夫:そう。それもあります。だったら、生データをもらえばなんとかなります。
吉澤正孝:生データだけど19か20実験をお願いします。すでに報告されている農業実験と同じように、確認実験のための組み合わせを追加してお願いすればさらに良いわけです。一回の依頼で加法性の確認までできてします。一石二鳥ですよ。
吉原均(司会):20個頂戴というのですね。最後の2行はこちらで指定した条件であって、それのSN比とL18の要因効果図のSN比で再現性を比較します。
吉澤正孝:さらに、20のデータはランダムに割り付ければ、さらに良いのです。品質工学に詳しくないところなら、何をやっていのるか分からなくて、購入側がノウハウをつかめるわけですよ。すぐ、そのようなアイデアは気が付きます。
吉原均(司会):20行あって、それも行が混ぜてあるからL18になってなくて、直交していないです。
白木信:面白いですね。
吉原均(司会):作戦的にはすぐできる直前まで来ていますよ。
白木信:別に、そのサプライヤーに対してでなくて、自分たちで実験するときでもL18をおこなってから、その後確認実験というのをおこなう暇がないときは、最初から20条件にして取り組んでもいいわけですよね。
吉澤正孝:農業実験法の応用です。平行確認実験というやつかな。品質工学でのやり方は、まだまたたくさんのヒントがあります。残念なことに品質工学の考え方が知られていないところです。手法は知っているけれど、基本的な考えかたを知らない方が多いのは残念です。
機能の評価はどうしたらいいのか
吉澤正孝:機能性の評価をまじめに考えなければいけない。新しい計測領域なのです。これからの計測の焦点は、物理的特性とか心理的特性の評価は基礎ですが、それを機能性評価との関連で使いこなさなければならないです。通常、物理的特性とか心理的特性は、応答関数を前提にしている。これは科学的態度に関連しています。しかし、技術の問題は、すべて機能に係るものです。難しいことは、技術問題は、つくるものがそれぞれ異なる。その機能目的により全部機能が違ってしまうから難しい。ロボットといっても、組み立てようのロボットや塗装用のロボットでは、機能が異なる。そのたびに機能性評価するっていうのは大変になります。だから、ロボットの用途を集めて、機能を統一的に測るような機能性評価を考えます。それが汎用機能とか汎機能とかという概念なのです。汎用機能を考える必要があると指摘したのは、田口博士です。残念なことに、田口博士はGeneric Functionという概念ですが、それを基本機能と自分で翻訳された。うまい言葉が当時なかったからですが、私は、汎機能と汎用機能と呼んでいます。基本機能という言葉を適応している沢山の事例をみると、結局、技術に利用する原理を考えて、その原理が目的機能を果たすかどうかを測る尺度になっていると、現在は考えています。基本機能は使う原理を考えるわけですが、それよりメタなレベルで機能を考えることが、汎機能です。まだ事例はありませんが、過去には取り組んだ事例がありますし、田口博士も著書の中で例示している。汎機能が見つかれば、ロボットの、個別の機能性の評価は必要がなくなり、あとはチューニングだけということになり、技術的な評価の効率がいっぺんに高まります。今後の機能性評価の課題です。
細井光夫:ジェネリックって汎ですよね。ジェネリックファンクションは、汎用機能が近い。
吉澤正孝:汎機能の議論というのはあんまり議論されていない。汎機能がある場合とない場合があるからね。そういうので難しさがあるのです。これは、品質工学の問題というより、技術評価の根本問題です。どなたかいった一石百鳥ができるといっておりましたが、それを狙えます。そのヒントは、エネルギー変換とか、転写性のように、信号変換とか、そのようなメタ概念なのかもしれません。実際のロボットの事例で研究しなければなりません。ロボットの汎機能の定義をするということです。
中島建夫:エネルギーになるかどうか分からないいのがいっぱいあるよね。確か基本機能はベーシックファンクションだとか、エレメンタリーファンクションだとかそういう意味でとらえている人がいるのは事実です。ジェネリックファンクションじゃなくて。
吉澤正孝:原理を考えてね。原理に基づいて信号を考えての目的機能を測る場合が多い。原理のとらえかたをメタにしなければいけないのかもしれません。
中島建夫:ロボットの問題は、アルプスアルパインの場合だと使う立場だから、他の会社からみたらどうでもいいのでしょうね。自分たちの使い方で良いかどうかであって。
吉澤正孝:倉庫で運ぶとか、梱包をするとか、介護をするとかのロボットとは、全然違うと考えるのが普通です。
鴨下隆志:こういうのって、実際を測るのではなくて、パルスを通して、そこへ行きなさいといって測るのだけでもいいのでは。
細井光夫:その方がシンプルな感じはしますね。
鴨下隆志:距離は、ともかくとして、どういう方法でやったときにハンチングというか、振動が少なくなるかとか、一個のパルスですむような気がします。
白木信:今回、5角形ですけども、まあ、基本的に考えれば、行って止まる。行って戻ってくる。行って次にまっすぐ行く。行って曲がる。これだけだと思います。まあ、それがある意味テストピースみたいなやり方でいければいいのかもしれません。
吉澤正孝:ロボットの場合は、方向と速度が関係します。例えば、ベクトルと考えベクトルの微分量で測る。つまり測度の追従性の良否ではかるなどです。積分すれば、距離になりますし、さらに微分すれば加速度になります。それにベクトルですから、方向が加わる。測度を信号にして方向は表示因子ですが、ノイズと考えるなどです。もちろん、速度ゼロの停止も含めます。速度の感度が安定していれば、位置も安定するはずです。
吉原均(司会):多軸ロボットは、ロボットの腕を延ばさず手元で動かすときの精度と、腕が伸びきっているような所での動かす精度はだいぶ違います。そういった意味では、基準点を変わると違いを評価できるからいいと思います。
吉澤正孝:そうです。ロボットにはいろいろ役割があるからそういった意味ではそう簡単にはいかないのです。
吉原均(司会):仕事をさせるというイメージで機能を評価できるように考えないと。
吉澤正孝:そこでさっきのジェネリックファンクションをどうするかって話になります。そこの議論が進むことを期待しています。
中島建夫:品質を測るなら、この場合のロボットには何があるのでしょうか。
吉原均(司会):品質を測るということですか。
品質が欲しければ品質を測るな
中島建夫:品質工学ではよく品質が欲しければ品質を測るなっていうでしょ。
細井光夫:その品質とは、電力ロスや騒音じゃないですかね。品質は損失であるという意味で。
吉澤正孝:それは使用コストに関係します。機能性がわるいと使用電力が大きくなります。それ以外に、性能項目として何kgまで持ち上げられますとか。精度はプラスマイナスいくつまで保証しますとか。そういう感じになっているのではないでしょうか。品質は性能に関係します。使用条件の制約なども性能項目です。機能範囲の制約条件も入っています。品質項目の中から、機能と機能性の評価条件を決めることも重要ですね。
中島建夫:品質というのはある条件を決めたときのある設計項目なのかな。
吉澤正孝:品質は、取引項目になりますが、顧客の総体を考えるでしょうが、その平均のところではかるとか、性能のように限界値を示すように決めているのではないでしょうか。結局、機能がどのように発揮するかの機能状態の一部の情報を示していると考えるのが良いと思います。あくまで品質で、基本機能は目的機能を測っているわけでないと考えて良いのではないでしょうか。
中島建夫:ロボットもだいたいそうしているのかな。
吉澤正孝:そうじゃないですかね。ただ、寿命とか、故障とかのデータは記載されていないと思います。また、社内でのばらつきの条件などは、依頼しないかぎりわかりません。PPMからばらつきを推定することはできますが、PPMは、メーカーの条件下での評価ですから、機能状態を測っているわけではありません。
細井光夫:寿命も品質ですね。
吉澤正孝:寿命も品質ですけれど、電子部品など一部のものきりださないのではないでしょうか。
細井光夫:品質項目としては保証期間です。それがすぎたら有償保証になります。
吉澤正孝:何年間保証するけれども、何回その機能するかも、ある条件を決めておこなうのが普通です。平均的な使用条件でないと実際評価できない。そういう意味では、品質というのは機能のある一面しか測定していないから、ある決められた条件でのことだから、実際は働いている状態の良しあしは評価していることにはならないのです。結局、ノイズ条件を調合したSN比を比較するなどの、工夫が必要となります。白木さんのところでの評価から調合条件が分けあれば、購入評価の合理化は、各社のロボットの相対比較ができるようになります。これも評価の合理になります。機能性の測定は、これからの新しい計測問題です。それは意思決定の質に関係してくるわけです。
白木信:まあ、だいたいカタログにいくついくつというときには、ただし、条件はこうですと小さい字で書いているものです。誤差因子があったら変わってしまいます。
吉澤正孝:今回、計測法の議論に関係することですが、基本機能や汎機能を考えても、結局、実際は、物理特性を測定できないことはたくさんあります。例えば、ロボットの場合、3次元位置をレーザー変位計で精度よく測れるかといえば、必ずしも技術や経済条件で測れない場合があります。そのような場合、計測法に制約される。計測と機能性評価はお互いに関連がある。しかも機能性は目的ごとにあるわけですから、新しい計測方法の開発が技術開発を制約することになります。田口(玄一)博士や矢野(宏)博士が、この点を指摘してきていることがキーとなるわけです。
鴨下隆志:エンジンの燃焼の例があります。フォードの事例で、田口先生がいう燃焼過程を機能窓で取ったのとは違うわけだから、本来は燃焼過程を測りたいのだけれど、測れないという場合がありますよね。計測器の開発、計測方法の開発も含めて検討しなければならないこともたくさんあります。こういう特性を測りたいのだけど測る機械がないから、やむを得ず別の特性値に置き換えてやむを得ず測る場合ですね。それから一方では、強度を測るなんて安易にいうけれど、強度を測る機械などなくて、引張強度度か圧縮強度とかの計測をするけれど、それが本当に合っているのかという問題があります。
吉澤正孝:この点が難しいのです。引張強度なんかもね、矢野(宏)先生がいろいろやったけど、あれは材料のある所での特性値を測っている。物理特性を測るというのは計測の一番重要な所なのだけれど、対象としている材料の特徴量を引っ張り強度だけでいいのかという問題がある。材料が持つ機能って一体何なのかという議論になってくると、引っ張り強度だけではなくて、引っ張っている状態の弾性変形のリニアリティーみたいなものが本当に重要だとしたらリニアリティーを測らなければいけないじゃないですか。そうなってきたときに、引っ張っていくと縦側に引っ張ると材料は横側が痩せるから、そういう問題も加味してくるから、けっこう難しい。材料の特徴に機能を与えるから、結局、材料の用途を考えなければならない。結局、材料の汎機能を考える必要があります。そこは計量研が悩んでいる所ですよね。
鴨下隆志:基本的な計測を行う研究所ですからね。
吉原均(司会):窪田葉子さん、ここまででどうですか。
止まることが求める機能なのか
窪田葉子:どうもわかりません。まず機能として、止まるということ自体が必要な機能なのでしょうか
細井光夫:いや、このロボットは、たぶんそこの位置で何かするのを求められているのですよ。
窪田葉子:止まってものを置く、そこに止まってそこにものを置くとか、そこで何かやるから要求されることで、止まるということそれ自体は必要とされていないのではないかと思ったのですが。
白木信:止まることができないと、そこで何かすることはできないと考えています。
窪田葉子:高速で動きながらとはいわないけれども、多少振動していても、それも組み合わせてとおっしゃっていたけど、最初からその組み合わせが機能なのではないでしょうか。
白木信:完全に止まってなくても、みんなで動きながらちゃんとねじ締めできるとかできればいいですが。
窪田葉子:ねじ締めは難しいにしても、ものを置くとかであれば、別に揺れていても、多少ばらついた位置に置いてもしっかりした位置に行くようにしておけば良いのではないですか。
細井光夫:しょせん、サブシステムですよ。
白木信:サブシステム同士で、まず自分の所で責任を取ろうと考えました。
吉原均(司会):これだけ止まっているのだったら文句はいないよと。
窪田葉子:個別にそういうふうにやっていく必要はないのではと思うのですが。
吉原均(司会):それは、部分最適に逃げたということで。
吉澤正孝:それは、すごい議論です。それはサブシステム分解したときに、サブシステム間の交互作用を利用して最適化するという考え方があります。それだと、すり合わせが必要になります。もちろん、全体を最適化するために、お互いのサブシステム間の入力、出力間のチューニングとは異なります。品質工学では、下位レベルのシステムを独立させ、SN比をロバストにして可能な限り、チューニングだけですますという考え方をとります。全体システムレベルでのロバスト設計と、下位を安定化させてチューニングさせるという設計では根本に考え方がことなります。チューニングのための実験を1980年代には行いましたが。
細井光夫:ただ、それは、実用上はチューニング対象になるので、チューニングができるかどうかを機能性で評価しておくというのは悪くないと思います。
白木信:お互いそれで、うまくできます。ちゃんとした上で、最後どうしますかと。
吉原均(司会):部分最適にならないようにサブシステムをいかに分解するかというのが大前提としてありますよね。
吉澤正孝:チューニングができるということは、出力値を変えられるということだから、一個一個の機能のSN比というか、ダイナミックな機能性というのを確保してない限りはチューニングできないですよ。機能性は、チューニングをするという前提で信号因子を確保します。チューニングは、信号因子がないと目標値に合わせこみができません。ダイナミックに変化する場合は、チューニングパラメータとしての信号因子にフィードバックをするのが普通に行っています。ロバストネス性を追求することは、最後のチューニング、つまり中心値を目標値に合わせたあとの誤差評価をしていることは、品質工学の重要な考え方です。
白木信:最後は全体として落としどころをどこにするかは、品質とコストと動作時間の兼ね合いで決めておこうと思ったのですけど。それをやる前提として、その前にこうなりますよというのを把握しておきたいというのがあります。
吉澤正孝:今は、独立機能としてみることです。
窪田葉子:ある程度やらないといけないのは分かりますが、例の、INAXのタイルの炉で、温度制御はきれいにやらなきゃいけないというのは見切りをつて、タイルの材料の中身を変えているのだから。それに似た感じを抱いたので。
吉澤正孝:で温度制御は温度制御を制御することですが、制御してもバラツキことが問題です。それは部分を制御していないからです。炉の制御方式があまりよくないということです。炉内温度のばらつきがあっても、いいものができるというのは、炉内温度の制御ではできないわけです。つまり原因に対して対策ができないので、タイルの処方をかえて改善するという考えです。むかしから、自然現象は独立していなくて相互関係でなりたっているという考え方があります。つつまり、自責と他責という考えがありますが、他責にして対策をとるのでなく、相対して自責のパラメータで目的を達成するという考えかたになります。他責要因は、ノイズです。自責のパラメータが制御因子です。因子の層別の考え方も品質工学は、東洋的は発想なのではないでしょうか。
経済的な手段を選択すべき
中島建夫:手段としては、どっちが経済的かでしょう。
細井光夫:これはぴったり止まるとしていない。どれだけ揺れるかを定量化しているということです。
白木信:そこに限界があれば、100ミクロンまでしかできませんとなれば、100ミクロンでねじ止めできるねじ止めの仕方を考えましょうということになります。
細井光夫:もしくは、時間ですむのであれば時間を延ばす手もあるし、あくまでも、タクトを要求するのであれば、どこかでしわ寄せを吸収するというだけですよね。
中島建夫:今、お金を考えてないからさ。5ミクロンの制御で、できるようにするならば100万円で、1ミクロンまで制御するには1000万円なりますとかね。そういうふうに値段を考えることをしないと決めらない。
白木信:最後は、そこまでやろうとしているのですけどね。
中島建夫:精度をただ上げればいいという話ではないのだよ。精度を評価して、一番いい手段はどうしたらいいかというのは、次の段階で考えることなのだよね。
吉澤正孝:だから、窪田葉子さんがいうように、後工程の機能限界値によって、前の損失コストが変わってきます。後工程がロバストになれば、どんな前工程の出力ばらつきも、誤差と考え、すべて対応するのであれば、議論は要らない。それは、工程ごとに後工程を考えて目標に調整して渡すのではないでしょうか。工程が連結しているならそのようになります。工程が連結していないなら別ですが。実際の生産や製品では、組み立て時にどこかで調整や校正をしているのが現状なのではないでしょうか。
白木信:当然、今この段階では、位置決めの所のSN比のしかみてないのですけれども、今度、それができれば、それと同時に動作時間の要因効果とコストの要因効果とトータルでみるということが最後になると思います。そこまで持ってきたいと思います。
細井光夫:取引という話についていえば、例えば、車のメーカーに対して、ダンパーを納入する会社があります。ダンパーといえば、建物に組み込む免振ダンパーでの失敗はチューニングしやすいようにしていなかったことです。チューニングできるようにしておいて、いただけるお金に見合った取引をしておけば、あのような問題にならなかったはずです。取引のために品質工学を使うことがすごく有効だと思います。ロボットメーカーの場合ならば、いただけるお金に見合って、ここまで精度を出せます、ここまで厳しい使用条件でも使えますとすればいいわけです。安いのをくれとなったら、ちょっと条件が悪くなるけれど、こっちがありますという。それを一回の設計行為でいかようにでも自在に出せるようにしたい。一粒で、2度3度おいしいようにするために機能性評価はすごく有効なのです。最適化だけをしたいわけではないのです。その考え方は使い方でも一緒だと思います。
吉澤正孝:ここが分かれば、あとは制御の話になるから、意外と簡単にできるのではないでしょうか。今、ロボットといっても安いものは個人でも買えるレベルのものがある。機能性評価の研究は比較的容易にできるようになってきた。
細井光夫:ハードとソフトのバランスもそういった意味で同様です。ハードをどこまで追い込んでおいて、あとからソフトでどこまでリカバーするかも必ずバランスがあるわけです。
白木信:剛性が悪くても、加減速をきちんとすればカバーできる。ソフトとしてのハードの使いこなしになる。
窪田葉子:確かに、使いこなしが良ければいい。ロボットメーカーからどんなものが供給されるようとも、うちの使い方にすれば問題ないとできるようになれば、それはそれでいいかもしれない。
吉原均(司会):一流のシェフは安い材料でおいしい料理を作るっていいますからね。フォアグラとかの高級食材を使っておいしく作るのは当たり前だと。お金を掛ければだれだってできる。
吉原均(司会):選び方に知恵が入ってくる。
細井光夫:それは、さっき吉澤正孝さんがいっていた崖ですよ。崖が分かっていれば、安心していいか、ダメかの判断がつく。
吉澤正孝:メーカーの方では、制御回路を変えるか、構造などのロボット自体のパラメータを変える必要があるということを意味しますから、あまりコストをかけたくないわけです。コストをかけないで、ばらつきを低減させることが重要になります。先ほどのべた、Y社では、機能性評価によるばらつきの大きさと購入価格を調べると、必ずしも相関がないことがわかります。高いコストのものは、結局淘汰されるわけですけど、結局ばらつきや使用コストなど購入後の損失と購入コストを加えた総合損失コストではかればよいことになります。品質工学ではさまざまな損失関数が用意されています。総合損失コストが安いというものを選択できれば、合理的な取引ができるわけです。機能性評価は取引に直接関係するということは記憶して良いのではないでしょうか。
要因効果の方がより有効
細井光夫:今日のお話で、私がすごくいいなと思ったのは、以前はSN比だけを使うと思っていたのですが、そうではなくて要因効果でのやり取りの方が、実はより有効ではないかと感じたことです。一長一短はありますが。
吉澤正孝:取引のときに機能性を評価することは、その改善にも役立つわけですから、要因効果を知ることは非常に重要になります。
細井光夫:要因効果が取引のときに出てくると、自分の持っている能力とバランスが取れて使いやすいものがどれか、分かるような気がします。
吉澤正孝:メーカー側の制御因子の効果を出せというのはノウハウだから難しいと思います。使用条件としての要因効果はユーザーにとっては重要となります。
細井光夫:誤差因子に対する要因効果を考えています。
吉澤正孝:取引において、どういうふうに最適値を決めたのですかということの問いに答えたら、そこはもう大変で、大変な取引になっちゃいますよ。結局、メーカーとしてはノイズとなる使用条件に対して安定性の確保をしておけば、結局ユーザーの使用条件を考えることとですから、結局、因子の層別がキーになると思います。
細井光夫:サブシステムのチューニングはサプライヤーに任せるほうが良いと思います。そこまで取り上げてしまうのはひどい話ですが、誤差因子に対する反応は教えてほしい。そうすると、自分たちの苦手な誤差因子はサプライヤーがカバーして、自分たちが得意な所は自分たちがカバーする。例えば、ハードがカバーする所とソフトがカバーする所の住み分けがある。
見原文雄:誤差因子の要因効果図って意味があるのですかね。
細井光夫:許容差設計で使うものです。
見原文雄:許容差設計?
細井光夫:崖を知るためには有効です。
見原文雄:許容差って制御因子でしょ。
細井光夫:許容差設計をして許容差を決めるときには制御因子でもあるけれど、サブシステムの実力として使用条件という誤差因子に対してどう反応するかという要因効果です。
吉澤正孝:使用条件だとすると、メーカー側の立場では、誤差因子になります。ユーザー側としては、どれだけ誤差因子を考慮したか、あるいは、製品をどのような条件で測定したかという、ノイズパラメータを知りたいのではないでしょうか。
細井光夫:先ほどの議論のように、L18+2の実験をこれでやってこいといえば、説明は不要だろうと思います。
吉澤正孝:それはユーザー側の話ですから、メーカー側は、調合も考えられるわけですから、その情報である程度推定ができるのではないでしょうか。
吉原均(司会):ユーザーの信号と誤差を定義して、要因効果が欲しいというのは取引として成立する方向ですよね。
吉澤正孝:それが、はじめに品質工学会がやろうとした機能性評価の考え方です。
吉原均(司会):相手の占有する技術の要因効果を出せといったら、ノウハウを全部丸出しにしろといっているのと変わらないよね。
見原文雄:それは無理でしょう。
細井光夫:それはありえない。
窪田葉子:でもこの条件のデータが欲しいといって、20条件の実験をやってくれるものなのですかね。
吉澤正孝:やってくれる場合と、やってくれない場合があります。
見原文雄:それは力関係。
細井光夫:マツダはそれをやるといっているように思います。
吉澤正孝:それは取引における力関係によりますね。最終ユーザーは力がある場合はメーカーに要請ができる。サプライヤーも逆にいえば、機能性評価でサプライヤーを評価することもできる。ある意味では、より高い次元での取引ができる。
細井光夫:まさにマツダはそんなイメージですね。
吉原均(司会):単にカタログを信じるか信じないか、あるいはカタログからちょっと怪しい所ちょっとつまんで実験してデータを取るのだというよりは、自分たちの使用条件というのをちゃんと提示した上で要因効果という意味で、機能性をみながら取引ができたら、より取引の質は上がりますよね。
見原文雄:ちょっといい。さっきの続きで、ちょっと疑問なのは、制御因子というのは、誤差因子を強く振っているからロバストだよという結果が出るわけじゃないですか。この場合は、誤差の要因効果というのはある制御因子に対してその誤差がこういう効果でした。でも制御因子をいっぱい振れば、そういう誤差なのだというのがよりよく分かるけど、ある条件についての誤差の要因効果が出るだけじゃないですか。
細井光夫:売り物として出来上がっているサブシステムだったら、その誤差に対する要因効果を前提に使用側が全体システムとして最適化したらいいと思います。
吉原均(司会):自分たちが買おうとするものが、自分たちの使用条件で、このくらいばらついてしまうものを買うか買わないかの意思決定するための情報が得られるといことですよね。
見原文雄:まあ、だからその製品にとってだけってことですね。
吉澤正孝:そうそう。
製品が個々にばらつく場合
細井光夫:実は、最近意識している大きな問題があります。出荷前に実機でいろいろな試験をするのだけれど、その試験をする実機のばらつきが大きいと、試験条件に対するばらつきではなくて、実機のばらつきをみていることになってしまう。
見原文雄:今の話もそうで、違う製品でやったら、誤差の要因効果って変わりませんかという心配があります。
細井光夫:だからロバストであることは別途教えてもらわないと困る。
吉澤正孝:売る製品がばらついているということですね。
細井光夫:そうです。
吉原均(司会):A社の仕事のやり方に対する誤差条件で要因効果が欲しいよというのと、B社の仕事のやり方に対する誤差条件で要因効果が欲しいよというのでは、その中身が違えば同じ制御因子に対して違う結果が出ますよね。
見原文雄:それは違います
細井光夫:いや、そんな難しい話はしていません。
見原文雄:A社同士でいいのだけれど、製品2個やったら、要因効果が違いませんかということ。
細井光夫:個体差があるわけですね。
吉原均(司会):2個というのは、同じ製品2個のこと。
細井光夫:そうそう。
窪田葉子:違うのですよ。プラントなんていったら、一個ずつ全部全然違うのだから。
吉原均(司会):それは相手のサプライヤーの実力を知る前に、自分の実力をもっと考えろという話では?
細井光夫:それはそれで、SN比でみなければいけないということですね。何だかおかしいと思ったけれど、そこでした。
見原文雄:そこを保証するのだったら逆にしないといけないのではないかという気がするのだけどね。
細井光夫:まずはロバストであることを保証してから、その後に誤差因子の効果をみる。
見原文雄:そうそう。ロバスト性をまずは保証してもらわなきゃいけないのだよね。
吉澤正孝:それをやるのだとするとY社がやったみたいに、何個か買ってそれで自分たちの使う条件を直交条件で割り付けて、何個かの機能性の評価をするというやり方をするしかないよね。
見原文雄:確実にやるのだったらそういうことですね。
吉澤正孝:コストがかからない場合は良いですよ。ブルドーザーを18台持ってきて評価するなんてできないでしょ。
見原文雄:2台でもいいのですけど。
細井光夫:コマツは1960年代に部品のスペックをL32直交表に割り付けて3機種で実験して、全く違うスペックのブルドーザーを96台作りました。
見原文雄:すごい。
吉澤正孝:そういう会社からは最適条件で設計した製品を購入できる。コマツの品質が高いのはそのような理由なのでしょう。ノイズを入れて最適条件になっていない製品では、ばらつきは当然あります。でも、制御因子を毎回毎回同じように使っていて最適条件で出来上がった商品が相当ばらつくというのはどういうのは、制御因子の選択がまずいか、技術限界に近づいている製品か、製造で間違って作ったかですね。
窪田葉子:それは、数をたくさん作っている所の感覚だと思います。
吉澤正孝:一個か二個きり作らない場合ですね。
窪田葉子:そう。1桁かせいぜい2桁しか作ってない所の感覚は違うと思う。
吉澤正孝:製品の精度は、手仕上げですから目標値どおりに作れると思います。つまり、調整でつくるということです。しかし、顧客の使用条件に対して安定性を確保するためには、パラメータ設計が不可欠だと思います。生産段階に移すまえの設計段階が重要となります。ノイズに対して安定化は、1品でも必要と思います。シミュレーションやビーカー実験など最適化設計の工夫が必要と思います。
窪田葉子:最適条件かどうかが分からないじゃないですか。1つか2つしか作ってなかったら。
吉澤正孝:一つでも今は最適条件を見つけるという方向でやろうとしています。
細井光夫:1台しか作らない機械もあります。
吉原均(司会):だからシミュレーションで…
吉澤正孝:シミュレーションもできないなら、ベンチフィクチャーやサンプルモデルや現状の製品をつかって、パラメータ設計を行うなど、変えられる条件を変えて実験をすることはできると思います。相対的にSN比が良い条件を見つけるという発想です。
窪田葉子:それに、毎回使う条件が違う。
吉澤正孝:毎回使う条件がことなるのは、ノイズですからそれらを事前に予測することが品質規格の問題でなります。料理の場合は、調整はしていますが、自分の口に合わせるのですから、良いのですから、他人に食べさせるときは、好みを事前に聞くなどをするのではないでしょうか。料理でも、特定の人に作る場合などは、テレビをみているとプロ中のプロの料理人は、事前に試しをしていますよ。それと同じことをするのですが、料理人は、パラメータ設計をしていませんが、比較的実験が簡単なのでトライアンドエラーをしているのではないでしょうか。
窪田葉子:そうですよ。一個一個全部違うのだから。
吉澤正孝:工芸品などは、つくって自分の感覚と違うものができると、結局、お客には渡さないのではないでしょうか。なにも事前に検討しないで、一品生産を提供するというのは、掛けのようなものではないでしょうか。それでも、職人は、過去の経験値から最適な組み合わせを想定してつくっています。同じ製品はつくりませんが、同じような製品をつくったことから、外挿しています。過去に記録があるなら、情報処理としての機能性の評価となりますので、MTSなどを使うのが良いと思います。酒屋などでも人工知能(AI)を入れようと研究がはじまっているようですから、やはりロバストな条件と探索する方法として、過去データを使うか、実験やシミュレーションをつかいパラメータ設計をするかどうかというだけだと思います。そうでないと、掛けごとになりますが、失敗の確率は高いのではないでしょうか。
見原文雄:大量のときでもやっぱり、今の話の流れだと、機能性評価で取引をしようとするのだったら、まず前提としてその商品がロバストである前提がないと苦しいのではないのですかね。何の商品にしてものロバストであることには越したことはないです。
吉原均(司会):見原文雄さんがおっしゃったのは、製品ごとに違うということはサプライヤーが提供するときにこの要因効果はこれですと出してほしい。それに近いようなイメージになりますか。
誤差因子の要因効果
見原文雄:というか、僕は直接の疑問は誤差因子の要因効果を書いて何の意味があるのだろうという所がよく分からない。
吉原均(司会):誤差因子の要因効果ですか。
見原文雄:だって、誤差因子の要因効果って別ロバストにしたいものでも何でもないじゃないですか。
吉原均(司会):誤差因子にお金をかけたくないから、それだけ使用条件を変わって、もやりたいわけですよね。
吉澤正孝:だから制約を当てはめた扱い方をするのではないでしょうか。
吉原均(司会):ここでいっている。要因効果を頂戴ねといっている我々発注する側の誤差条件は、ユーザーの使用条件ですから、それを提示しておくということは楽に仕事したいってことをいっているのですね。
見原文雄:機能性評価する分には、それはそれでいいと思います。
吉原均(司会):その範疇の理解しかないのですけれど、
吉澤正孝:大型コンピューターは、温度が高くなっちゃう機能ダウンしています。必要な顧客は、20°C程度の空調の中で運転をしていました。人が働く環境より良いのですよ。今のパソコンは、通常の環境でつかえますよ。それだけ環境に対してロバストになったのです。環境条件に対して機能が働くということは、発熱もしないと
見原文雄:これからだから1回するのはいいじゃないですか。そこから先に2年間で10万個作りました。10万台目も、その誤差因子の要因効果がちゃんと信用できるのだなという所がよく分からない。
中島建夫:信用できるかできないかは、まさに別の話じゃないかな。
見原文雄:じゃあ、なぜ知りたいのだという話なのですけど。その取引のときはいいですよ。そのときに出てきた個体はSN比も出ました。それで納得しました。じゃ、取引しましょう。
吉澤正孝:例えば、今度、車を買うと考えます。この車は、雨が降ったときはスリップしますよという情報をもらって買うのか、それとも、全然知らないで買うのかという場合という場合と同じではないか。雨が降ったらスリップしやすい車でも、自分は、雨の日にはなるべく乗らないような運転だから問題がないとか、雨の日はスピードを落としてのるとかするなら、値段を交渉するとか、他の仕様がそれでも満足するかどうかを考慮して購入する決定をするのが、ユーザーの態度だと思います。
見原文雄:それは、そうですけどね。でも、それを先にいったら、あれ?違う答えの話をしていますけど。
吉澤正孝:少なくとも、大量生産を想定して、ここの商品の内、その可能性があるかどうかという情報に関連します。
見原文雄:一人のユーザーとしてでしょう。
吉澤正孝:そうですよ。結局個別の商品の特性をすべて出すことは通常不可能だから、品質管理をするのですから、ばらつきの範囲で管理しているという情報をだすのが良いということです。しかし、実際はそのようなデータはあまりユーザーには届かない。
見原文雄:1台目と例えば10万台目で、10万台目はもっと滑るようになっているかもしれない。
吉澤正孝:けれど、もっと滑るようになっているかもしれないことはわかりません。しかい、ユーザーはこの商品の今の状態を知りたいということは事実ですから、実体は不明であるが、そのばらつきの範囲は知りたいのではないでしょうか。
吉原均(司会):逆にいうと、ユーザーはそれを買うかどうか悩んでいるかというと、それが1台目のか10万台目なのか、分からないということですよね。
見原文雄:BtoBでね、ロボットを買うのだったら、1台目買うのも10万台目買うのも、もしかしたら同じユーザーかもしれないですよ。
吉原均(司会):10万台も買うお客さんなんて世の中に何社あるのだろう。どれだけ大企業なのか。
見原文雄:だから仮にですよ。(笑い)
吉原均(司会):仮にロボットに例えるなら、それちょっと苦しいと思うけど。
吉澤正孝:もし、オーダーメードでやるのだとすると一個一個受け入れ検査をするのではないでしょうか。BtoBの仕事では、実際やっていることだと思います。もし、そのロボットが、量産されているというなら、そのロボットの仕様を確認して、どの程度メーカーが保証しているのかという点で調べる。しかし、それがそのまま、ここの商品の実力を示すわけだから、今回のようにユーザー側が調べる。一般的な商品でも、購入して期待通りかを調べるのが普通のことだと思います。食料品などは、繰り返し購入するから、ばらついていれば、結局信用を失うことになります。
少なくとも、そのメーカーを信じるなら、それなりに最適設計されているという前提で購入しますが、品質工学を知っている企業は、さらに賢い購入方法をするということなのではないでしょうか。
中島建夫:機能性評価の話は、たくさん作るかどうかは別の話だよね。
吉澤正孝:大量につくるかどうか直接関係ないですね。1品でもノイズに対して安定した設計をしておいたほうが良いにきまっています。内乱に対しては、たしかに調整などで中心値を合わせて出荷をすることで対応ができますが、内乱の中でも劣化や摩耗などは使ってからでないとわかりません。ある程度の機能性の劣化に対しては、ユーザーの購入後の管理問題となり診断やメンテナンスとなりますので、そのような情報も購入時に要求することが賢い購入方法になるのではないでしょうか。
中島建夫:どこまで機能性評価を、厳密にやるかどうかは、まさに、たくさん作るやつはある程度精度を上げてもいいけど、単品だとまさにそのために使うだけだから、経済性の問題だと思うのですよ。
見原文雄:だから、さっきいったのは、1台目の誤差の要因効果っていうものを持っていて、じゃあどうするのかという話です。その一台だけで運用するなら、それでいいと思いますけど。
白木信:量産したら変わってしまうものなのですかね。
見原文雄:変わらないという保証はないですよね。
白木信:変わらないように作るのが量産なんじゃないですか。
見原文雄:だから、それ以前に、その製品自体のロバストは保証されていないといけないよねという話。
細井光夫:そうそう。
機能性評価で製品保証を
中島建夫:その話は、製品の機能性評価は設計を評価していて、製品の製造ばらつきは製造工程の機能性評価だということを区別する必要があると思う。
吉澤正孝:でもそのデータがロバストかどうかは、ユーザーは知らないのだからあとから品質問題を起こっているのです。個々の商品のばらつきは、確かに買ってからきり知りえないのですから、販売するメーカーの、品質保証のレベルを結果的に知ることになる。だから、メーカーは品質を管理するのではないでしょうか。問題は、その管理の仕方を機能性で調べるというのが、白木信さんの提示した今日の話題です。
見原文雄:制御因子のSN比を出せっていうわけですよね。
中島建夫:知っているから要求するわけでしょう。ユーザーにだせということは知っているから要求しているのではないの。
見原文雄:知っているとは、何を知っているのですか。
中島建夫:制御因子のSN比と要因効果図を出せと。
吉澤正孝:本当の理由は、一品一品の状態はわからないのであるから、その設計した根拠をしりたいという次元まで進化してきているのではないでしょうか。今後取引を行うための、品質保証のレベルを知りたいというのは、本心だと思うのですが。結局、その会社では製品が今回の適用のために信用できるかどうか不明だから明らかにしたいということです。白木信さんのような実験をすでにメーカーで行っていれば、制御因子は不明でも誤差がわかればある程度、カタログデータの信用のレベルは高くなるということではないでしょうか。そのような情報が得られないというときに、どうするかという問題です。結局、購入する側が調べることにある。自分の工程の保証は自分でおこなわなければならないからです。
中島建夫:信用できないどうかは別の話だよ。話が錯綜しているような気がするね。
吉澤正孝:高い設備などは、一個一個の購入した製品を調べるのが普通なのではないでしょうか。その実力により、生産段階で管理として対応しなければならないから、どうしても購入製品の試運転段階で調査しているのではないでしょうか。
細井光夫:そうかな。
取引の機能性評価
鴨下隆志:取引の機能性評価だったら、ユーザーは、誤差因子を沢山とにかく取り入れてテストするしかないわけですよね。だから、ユーザーは、1台でも2台でもいいのですけど、とにかく、適切な誤差因子をなるべくたくさん取り入れて比較する。それしか、ないじゃないですか。良いか悪いかは別ですよ。その結果、誤差因子の影響を受けやすいとか、ある特徴の誤差因子の影響が出やすい。そういう機械というのが見つかるかどうかということ。それだったら、うちは買わないとかね。あるいは、別のメーカーのものを買いますという話だけじゃないですか。取引だったら。
細井光夫:一つ気になっているのが、個体差を現状では評価ができない。個体差の評価を、ロバストネスで保証しろというしかないと思うけれど。
見原文雄:そういうことですね。
白木信:個体を評価するのであれば、誤差因子の中に、例えば、朝作った場合と夜作った場合を入れとか、何かそういうのを入れないと個体差は評価できないですよね。
細井光夫:そう。そんなイメージ。
鴨下隆志:たくさん買うということが前提ですか。1台じゃなくてね。
吉澤正孝:今回のような高い設備や、それらを大量に使うなら、ちゃんと受け入れ検査をやらないとまずいよね。基本になる部品などでは、事前に信頼性テストをしているのはないでしょうか。あるメーカーでは、メーカーと一緒になって開発している。進んだメーカーは、その信頼度試験もノイズを入れて行っているのではないでしょうか。信用できないなら受け入れ検査を入れて全数検査をやりますよ。それが嫌だから、メーカーに検査調整を行わせる。工程診断みたいに、何個か抜き取るとかだね。そういうユーザーの評価を入れないとまずいと思う。それが、だんだん信頼できるようになったら、工程診断間隔を延ばしてくということをおこなっている。それが嫌だから、仕入れ先の事前診断や、品質診断を行っている購入先があります。これはメーカー対サプライヤーとの力関係になりますが。
中島建夫:製造のばらつきまで考えちゃうとね、何ていうか検査できないのが多い。食品なんかは食べないと分からないよ。本当の所は。(笑い)
細井光夫:それは信じるしかないか。
中島建夫:個体差なんかは、みんなそうだと思うよ。
吉澤正孝:本当に死んでしまうのであれば、例えば食料の場合だったら、抜き取って破壊検査を行っている。ある程度のばらつきであるなら、すべて捨てているか出荷していませんよ。結局、しらべて良品でも、失った品質問題を回復するには相当の時間がかかることが過去の経験でもわかっている。今回の東日本の地震なのでも皆知っていることです。
白木信:今、米は全数検査をやっています。それをそろそろ止められなかという段階になっています。
窪田葉子:あれは非破壊検査でできますから。
吉澤正孝:破壊するやつは抜き取りでやるしかないよね。または、工程で保証するきりない。
中島建夫:材料は、検査ではほとんど使う所の材料は測れないですよ。検査した隣のものを使ってもらうしかない。これとこれは同じだっていうことを信用するしかないですよ。材料はみんなそうですよ。今は、製品の完成品検査はしないものがかなりあるのではないかな。
吉澤正孝:通常、工程が保証されているなら、それは、よほど悪いか、初期のロットを用いて検査を行うか、徐々にチェック間隔を伸ばしていく。そのような管理方式をとっていないところは信用を失います。
中島建夫:ほとんど、そんなことは無駄だからやらない。
吉澤正孝:全くそのとおりです。半導体みたいに検査費用がものすごい安くなるとか、工程でモニターして、全数検査して悪いやつはどんどんはじいています。食料に金属や、プラスチックの破片がはいるなどは、工程でモニターしていて全てはじくシステムを作っているメーカーはあります。
中島建夫:品質保証をどうするかというのは大きな問題だけど、機能性評価とかとは別のような気がするね。
合格した製品の市場クレーム
吉澤正孝:個別商品の話は、機能性評価を行ったあとの管理問題です。管理が悪ければ先ほどから見原文雄さんがいうように、不良品をつかまされる。
中島建夫:今は、受け入れ検査はほとんどしない。アルプスアルパインなんかでも、たぶん数値は出すけど、トヨタとかの工場では受け入れ検査は絶対しないだろう。不良品のせいでパターンと工程が止まったら、ペナルティーをよこせとなるのではないか。
細井光夫:おお、それは怖い。
中島建夫:そうなのだよね。だからペナルティーにならないように気を使っているのですよ。
クレームが来るかどうかというそういう話だよね
中島建夫:もちろん、それを避けるために検査するのはすごいコストがかかるから、どれが一番経済的なのかということで決めってくるのだよね。
細井光夫:なんか、ジャストインタイムで、工場の外でトラックが待っているみたいな話で、出荷の前に必死で検査していたら間に合わない。でも検査しないで失敗するとペナルティーが大きい。板挟みですね。
中島建夫:だから、アルプスアルパインがやっていた流出撲滅運動も意味があるのですよ。不良品を出しちゃいけないから、やるのですよ。
細井光夫:そうしたら検査の技術向上が進みますね。いかに安く計測するかということが本当に大事になってくる。
吉澤正孝:製造問題ではそれが一番重要となりませすね。今度は、特にインラインの計測器がばらつきと、そのばらつきが、製品のばらつきに加算される。全品合格した製品でも、市場でクレームはメーカーの製造段階で不良がでる。このこと気が付いたのがアルプスアルパインでしょう。結局、品質特性は、機能性の一部をとらえて合否判定をする。顧客がどのような領域で使うか、その使う条件のなかで、ばらつきを最小化したうえで、管理をする。さらに他特性の特性を総合してさらに総合した特性にして管理限界を設定して管理をする。そのようにしたシステムを開発しています。つまり、不良かどうかの検査から機能の正常状態からのはずれる管理限界で管理をするという、シューハートの管理の考え方を機能性評価と取り入れた管理方式です。そのためには、インラインで安く特性を計測することが非常に要求されていると思います。
細井光夫:以前聞いた話では、MT不良といわれて、今までの基準だったら合格品だけれどMTシステムによる判別をかけたら不良品になってはじかれた。しかし、トータルでみたら結果的に、クレームが減ったということになったらしい。
吉澤正孝:重要なことは、個々の特性において、部品の許容差が合理的に決められているかという問題と、その上で、工程の管理限界を設定するとい目的別な機能性のレベルを決める必要があるといいうことを意味します。結構難しいのは、ユーザーの使い方が明らかになっている場合と、部品メーカーなどのように汎用品を作っている場合ではことなるでしょう。それらは具体事例でここに解決しなければならいでしょう。機能のレベル設定は、結局、損失関数で決められているかだと思います。
中島建夫:そこはやらないでしょう。やっていて不具合が出たら、許容差を狭めていくのでしょう。
鴨下隆志:許容差って一カ所でなくて、たくさんのパラメータがあるから、要するに最終的には、許容差の端っこ端っこで組み合わさったら悪いのが出てくるのは当たり前だね。結局みんな目標値の中心になっているということが前提で考えるけれども、運悪くそういう端っこのやつも入っちゃうわけですよね。その点、MTシステムの考え方は優れている。
細井光夫:そういうことですよね。なるほど。
吉澤正孝:それはね、今までやったことのない検査方式なのですよ。それはもう、アルプスアルパインがやったことなのだ。
細井光夫:やはり、一個一個の項目に対して基準で切っていくのはまずいですよね。
吉澤正孝:型製品などは、摩耗を考えて中心を設定するなどしているのではないでしょうか。摩耗するなら、少し、型の中心値は、小さい方に片寄らせる。その加工は、良いのですが、多くの穴や突起を合成して、その部品の機能が発揮する場合は、全部の寸法が小さい方にかたよってします。このような場合、問題をおこさないとも限らない。そうすると部品としての機能が悪いのが出てくる。
鴨下隆志:真ん中を狙ってないわけですね。
吉澤正孝:シューハートが示した品質管理は、統計的管理状態にしたうえでも、大きくなったり小さくなったりするのだから、その分散と偏りをみて、統計状態から逸脱したら管理するという管理方式が経済的だといっている。しかし、ここの寸法の場合はいいが、多くの寸法を持つ部品や、多くの機能を持つ機器や部品は、その合成問題がある。このような機能の累積問題に対する最近の答えがだされていると思っています。
鴨下隆志:現実にはね。
吉澤正孝:重要なことは、ここの機能の許容差と管理限界の決め方を経済的に行ったうえで、合成の問題があるかどうかを検討したうえで行うということです。最初には、機能限界、許容差と工程の管理限界の設定ということを考えているかというと、どうもそういう風になっていないのが実情ではないでしょうか。MTSの方法が与えられるまえは、そのような発想がなかった。そこは新しい所です。
吉原均(司会):アルプスアルパインはMTを使って、本当に出荷後にクレームが出ないような製品として、機能を持っているかどうかを評価した。それが見事に当たったということですね。では、そろそろまとめに入りましょう。
吉澤正孝:今回のお話は計測の問題と機能性評価ということになりますが、計測もここの物理特性や化学特性やはたまた官能特性を測る計測尺度の、精度の問題もある。しかし、その計測自体が機能性を測る1手段となる関係がある。機能性の計測も一つの重要な計測があり、精度がある。その精度問題がSN比で評価されるという時代になってきたのであると思います。少し測定という概念をメタなレベルでみれば新しいジャンルの計測問題に置き替えられるということなのでしょうか。一つの事例だけの話だと概念の話になってしまいます。個別の事例だとすると、個別の話になり部分的な話になってしまいます。白木信さんの事例からはじめ、一般的な話とミックスした感じになってしまいましたが、計量新報の読者の方には十分満足してもらえる十分自信はもてません。
吉原均(司会):こういう流れになるとは、品質工学でしつこく議論するNMS研究会としては想定の範囲ではあるのですけど、座談会としてはユニークな流れです。(笑い)
いかに計測するか
鴨下隆志:でも、機能性というテーマは、あんまり一般的ではないですよね。こういう一つの事例として、これだけいろんな議論が出るのですからね。しかも機能性と計測という関係でいうと、いかに計測が重要なのかなというのが入ってくると思います。それから計測の誤差でいえば、不確かさですが、こうしたものをどのように適切に評価するかとかね。そういう考え方は一般的にはどこでも使える話ですから、たぶん計量新報の読者にとっても参考になるかなと思います。
窪田葉子:何を測るかが重要ですよね。
鴨下隆志:しかもそれが測れるかっていうのは非常に重要です。
吉原均(司会):まあ今回それが測れたから止まってないのだってことが非常に問題になるってことは分かったとこですね。
白木信:測れたかどうかっていうことがありますけれども、もうちょっとという所ですね。
吉澤正孝:距離という特性は測っているのだけど、機能は測れてないいということになりますね。
鴨下隆志:これからも、また続けていけばいろいろと改善されていきますから良い方向に行くのではないかと思います。
吉澤正孝:今の、計測に関わる問題というのは、個々の物理特性や化学特性などを測っていますが、機能を測るという新しいジャンルの計測問題と位置づけ、今後も議論を継続していく必要があります。
白木信:特性量は測れるけれども、それを機能という意味でどうとらえるかが、まだうまくできないという感じです。
鴨下隆志:世の中には機能なんていうことを考えないって人の方が多いじゃないですか。だから機能って何なのだというとこですよね。そこから始まると思うのですけど。でもこういうのって本当はすごく重要なのですよね。
吉澤正孝:本当に重要なことです。機能性評価は、機能の数だけあるわけですから、21世紀の課題だと思います。
吉原均(司会):そうですね。
鴨下隆志:計測でよくいうのは、測定対象の寸法や許容差を測るということが中心じゃないですか。だけど、あまり目的が明確じゃないわけですよね。品質工学の場合には、かなり目的は明確でして、パラメータ設計のことを考えれば、最適化ということに持ってくるだろうしね。オンラインだったら、その計測の不確かさそのものが品質の水準に影響するわけですから、そうしたことを通して非常に計測の不確かさと重要性というのが注目されると思うので形状を測る機会はたくさんありますけど、形状を測ったそれをどうするのという所のアクションの取り方が不十分な気がしますね。品質工学では多特性の場合まで考えてやっている所がちょっと違うのかなという意識はありますね。
吉澤正孝:目的対象が今までは、製品の性能の一部をとらえて品質特性として計測していた。徐々にものサービスの性能のものとなる目的機能をどう測るかっていうことが重要になっていう感じがします。それだけものとことづくりが難しいから、代用として管理特性を設定してきたのだと思います。機能というのは個々の製品はサービスに機能があります。機能を測ることは個別で、千差万別になるわけです。それだと、最も効率が悪い。物理特性で、長さを昔は、メートル法以外にもたくさんあったが、だんだんメートル法で共通化してきた。それと同じように、ここの機能であるが、少しメタレベルでみると同じように定義できる機能があることが、わかってきている。そのような共通ではかれる汎用機能あるいは汎機能の研究が必要と考えています。機能性評価はこれからの問題で、共通の計測技術をめざして、事例を通して研究していく必要があると思っています。
中島建夫:それと機能だとたいてい、測定1項目じゃないのだよな。パターンなのだよね。パターンだから尺度をどうするかっていうのがまだやられてないのですよ。SN比も一つの尺度ですけれど、他はほとんどないのではないかな。そういうふうに機能を測る尺度というのは。
鴨下隆志:要するに1点ですもんね。ある意味でいえば。
中島建夫:一つの尺度にしないといけないからね。測ろうというなら。
吉澤正孝:機能というのは、働きを表したもので、状態を表しています。だからね。状態を測るかですから、ダイナミックな特性になります。
中島建夫:そう。パターンを測るっていうのだけど、それでうまくやれるかどうかっていうのは、まさにケース・バイ・ケースで、うまくやった例もあれば、そうはいかないケースも多いものね。品質工学の分野で僕はまだ、多機能で、多項目というパターンを測って尺度にするというのは、研究が遅れている。これからだなと思う。
吉澤正孝:物理特性などの測定問題は、国や経済の統治問題から出発しているわけです。計測の本によれば、メソポタミア時代ぐらいまでさかのぼるということですから、5500年の歴史があるということです。機能性評価は、1990年代から本格てきにはじまったのですから、まだ25年程度です。これから21世紀の課題だとおもっています。今日のロボットの移動性を測る機能を5角形の点間の移動で測ろうとした機能性評価としてとらえますが、汎機能としてとらえるなら、パターンの転写機能としてとらえることも可能です。移動するものは、ロボットだけでなく、自動車や船舶、物流などの動くものの多くは移動性になります。一つのメタ機能の評価としてとらえるなら、共通した機能性を測る尺度として考えられます。測定の合理化にも役立つのではないでしょうか。これも、品質工学の提唱者であった田口博士が提示した課題です。今後の活動として研究を期待したいと考えています。
中島建夫:本当に5角形が問題になったら、5角形の崩れ方をどういう尺度でいいのかなんか悩ましくなってしまったね。
鴨下隆志:非常に良い問題提起です。
吉原均(司会):本日は、それらのことが明らかになったということで座談会を以上としたいと思います。白木信さん今日はありがとうございました。貴重な事例を提供いただき助かりました。みなさん、お疲れさまでした。
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